包茎手術後のペリカン変形とは?原因・自然に治る?治療法を医師が解説
2026/09/02
「ペリカン変形」は、単なる術後の腫れとは分けて考える必要があります
包茎手術のあと、陰茎の裏側、特に包皮小帯の周辺がぷっくりと膨らんで見えることがあります。
術後早期であれば、その多くは手術による炎症やリンパ液の流れの変化によって起こる**一時的な浮腫(むくみ)**です。包皮手術後の浮腫には、炎症による毛細血管透過性の変化や、血液・リンパ液の流れの障害などが関係すると考えられています。
一方で、小帯側の膨らみが時間が経っても残り、横から見たときに鳥のくちばしのように突出して見える状態を、日本の包茎手術の分野では俗に**「ペリカン変形」**と呼ぶことがあります。
ここでまず知っておいてほしいのは、「ペリカン変形」は国際的に統一された正式な医学診断名ではないということです。
医学論文では「ペリカン変形」という名称よりも、術後浮腫、リンパ浮腫、内板の過剰な残存、腹側の余剰組織など、それぞれの状態について研究されています。
そして現在の文献をみると、包茎手術後の腹側の膨らみには、単純な「むくみ」だけでは説明できない要素があることが分かってきます。
小帯や内板を残しすぎることも、腫れが残る原因になり得ます
包皮は、外側の皮膚である外板と、亀頭側の粘膜に近い内板からできています。
手術では、この内板をどの程度残すかも仕上がりに関係します。
近年のレビューでは、包皮小帯を過剰に温存することが術後浮腫につながる可能性や、内板などを過剰に残すことで、陰茎腹側に“skirt-like”な余剰組織が生じる可能性が指摘されています。
また、別の研究でも内板を過剰に残すことが術後浮腫の重要な要因の一つとして挙げられています。
つまり、
「小帯側が腫れているから、すべて時間が経てば引く」
とは限りません。
術後早期の一時的な浮腫なのか、それとも残された組織量や手術デザインなどが関係して形として残っているのかを分けて考える必要があります。
長く残った膨らみは、ずっと「水がたまっている」だけなのか?
これも重要なポイントです。
一般的なリンパ浮腫は、初期には組織に水分がたまった状態が中心ですが、慢性化すると組織そのものにも変化が起こります。
実際、慢性的な陰茎リンパ浮腫では、浮腫が長期間持続して組織が厚くなり、手術でリンパ浮腫組織の切除が必要になることがあります。さらに、circumcision後に重度の慢性陰茎リンパ浮腫を生じた症例では、病理組織で慢性炎症・線維化・間質浮腫が確認されています。
そのため、長期間残った膨らみについては、単純に、
「まだむくんでいるだけ」
とは言い切れません。
ただし、ここは慎重に考える必要があります。
いわゆるペリカン変形そのものを病理学的に調べて、「時間とともに線維化する」と証明した研究は十分ではありません。
したがって現時点では、慢性的なリンパ流障害によって組織が変化するという病態は知られているものの、それがペリカン変形にどの程度当てはまるのかは、まだ明確ではありません。
ペリカン変形は「医師の技術が悪かった」の一言では説明できません
ペリカン変形についてインターネットで調べると、「手術の失敗」と説明されていることもあります。
しかし実際には、もう少し複雑です。
小帯や内板をどの程度残したか
外板・内板をどのような形で切開したか
縫合した組織同士の形や長さ
リンパ流がどの程度保たれているか
術後にどのような圧迫・創部管理を行ったか
など、複数の要素が関係している可能性があります。
特に、正確な切開デザインとリンパ組織を意識した手術操作が術後浮腫を減らす可能性については、臨床研究でも報告されています。
ただし、「外板を尖らせすぎた」「小帯まで包帯を巻けていなかった」といった個々の要因が、独立してペリカン変形を起こすと証明されているわけではありません。
この記事では、こうした文献で分かっていることと、手術を行う医師として考えられることを区別しながら、
ペリカン変形とは何なのか
普通の術後浮腫とは何が違うのか
なぜ小帯側に起こるのか
内板の残し方や切開デザインは関係するのか
予防するために手術・術後管理で何ができるのか
自然に改善するものと残るものをどう考えるのか
残ってしまった場合、修正手術は必要なのか
を順番に解説します。
ペリカン変形とは?なぜ「ペリカン」と呼ばれる?
「ペリカン変形」という言葉を初めて聞く方も多いと思います。
これは包茎手術後に、陰茎の裏側(腹側)、特に包皮小帯の周辺が部分的に膨らみ、その膨らみが残って見える状態を指して使われる俗称です。
横から見たときに、膨らんだ部分がペリカンのくちばしのように突出して見えることから、このように呼ばれています。
ただし、前章でも触れたように、「ペリカン変形」は国際的に統一された正式な医学用語ではありません。
そのため医学論文を「pelican deformity」で検索しても、この名称で病態が定義されているわけではなく、実際には術後浮腫、リンパ浮腫、腹側に残った内板や余剰組織など、複数の要素に分けて考える必要があります。
手術直後の小帯側の腫れ=ペリカン変形ではありません
ここは特に重要です。
包茎手術後には、炎症やリンパ液の流れの変化によって、傷の周囲に浮腫が起こります。
そして浮腫は必ずしも全周に均等に出るわけではなく、小帯周辺の腫れが目立つこともあります。
そのため、術後数日〜数週間の段階で裏側がぷっくりしているからといって、
「ペリカン変形になってしまった」
とすぐに判断する必要はありません。
術後早期の膨らみは、時間とともに浮腫が改善することで目立たなくなる可能性があります。
問題になるのは、腫れが引いたあとも形が残る場合です
一方、時間が経過して全体の腫れが落ち着いてきても、小帯側だけが袋状・ひだ状に突出して残ることがあります。
このような状態が、一般に「ペリカン変形」と表現されているものに近いと考えられます。
ここで重要なのは、長く残っている膨らみをすべて、
「まだ浮腫が残っているだけ」
と考えないことです。
手術の際に残された内板や小帯周辺の組織そのものが多ければ、腫れが引いたあとも余剰組織として形が残る可能性があります。
また、リンパ流の障害が長期間続けば、一般的な慢性リンパ浮腫では、慢性炎症や線維化など組織そのものの変化が起こることも知られています。
つまり、見た目は同じ「小帯側の膨らみ」でも、
術後早期の一時的な浮腫なのか
残された組織そのものが多いのか
浮腫が長期化して組織に変化が起きているのか
によって、中身は同じとは限りません。
まずは「いつから、どう変化しているか」を見る
そのため、小帯側の膨らみを評価するときは、見た目だけでなく術後どのくらい経過しているかが非常に重要です。
術後早期で、少しずつ膨らみが小さくなっているのであれば、まずは浮腫の改善を待てる場合があります。
反対に、十分な期間が経過しても形がほとんど変わらない場合には、単純な術後浮腫とは分けて考える必要があります。
「小帯側が膨らんでいる=すべてペリカン変形」ではない。
これが最初に知っておいてほしいポイントです。
なぜペリカン変形は小帯側に起こりやすい?
ペリカン変形が特徴的なのは、陰茎全体ではなく、包皮小帯のある裏側(腹側)に膨らみが目立つことです。
これには、小帯周辺の解剖だけでなく、手術で内板をどのように処理するか、術後のリンパ液の流れがどう変化するかなど、いくつかの要素が関係していると考えられます。
包皮小帯周辺は、単純な「皮膚の一枚」ではありません
包皮小帯は、亀頭の裏側と包皮をつないでいるヒダ状の組織です。
包茎手術では、外側から見える皮膚である外板と、亀頭側にある粘膜に近い内板を切除し、残った組織同士を縫合します。
このとき腹側は小帯があるため、他の部分とまったく同じように一直線に切ればよいわけではありません。
小帯をどの程度残すのか、周囲の内板をどのような形で残すのかによって、術後の腹側の形や組織量が変わります。
内板を多く残すと、腹側に組織が集まりやすくなります
包茎手術では、亀頭のすぐ下まで内板をすべて切除するわけではなく、一定量を残して縫合します。
ただし、特に小帯周辺で内板を多く残すと、縫合後に腹側だけ組織量が多い状態になる可能性があります。
近年のレビューでも、小帯を過剰に温存することによる術後浮腫や、内板などの過剰な残存によって腹側に“skirt-like”な余剰組織が生じる可能性が指摘されています。
つまり、小帯を残すこと自体が悪いのではなく、「どのような形で、どの程度残すか」が重要ということです。
小帯を温存しながらも、周囲の内板とのバランスを考えてデザインする必要があります。
リンパの流れが一時的に変化することも関係します
もう一つ重要なのが、リンパ液の流れです。
包皮には細かなリンパ管があり、組織にたまった余分な水分を回収しています。
包皮を環状に切開・切除すると、このリンパ流も一時的に影響を受けます。
その結果、術後早期には傷の周囲に水分がたまり、浮腫が起こります。
特に腹側に組織が多く残っている場合には、
残っている組織そのもののボリューム
に、
術後の浮腫
が重なることで、小帯周辺の膨らみがさらに目立つ可能性があります。
つまり、術後早期に見える「ペリカンのような膨らみ」は、余剰組織と浮腫が重なって見えている場合もあると考えられます。
「小帯があるから必ずペリカンになる」わけではありません
もちろん、小帯を温存したからといってペリカン変形になるわけではありません。
包皮小帯には機能がありますし、手術では必要な組織をむやみに切除すればよいわけでもありません。
重要なのは、
小帯を温存することと
余分な組織を残しすぎないこと
のバランスです。
さらに、切開線のデザインや縫合、リンパ流、術後の浮腫など複数の要素が重なるため、ペリカン変形を一つの原因だけで説明することは難しいと考えられます。
内板の残し方や切開デザインはペリカン変形に関係する?
ペリカン変形を考えるうえで、手術時の**「どこを、どのような形で切るか」**は重要なポイントです。
包茎手術は、単純に余っている包皮を輪状に切り取って縫えばよい手術ではありません。
特に小帯側では、内板をどの程度残すか、外板との長さや形をどう合わせるかによって、術後の形が変わる可能性があります。
内板は「残せば残すほどよい」わけではありません
内板は亀頭側にある、粘膜に近い組織です。
包茎手術では一定量の内板を残して外板と縫合しますが、内板を長く残しすぎると、縫合後にもその組織が残ります。
特に小帯周辺で内板が多く残れば、腹側だけ組織量が多くなり、術後の浮腫が加わったときに膨らみが目立ちやすくなる可能性があります。
実際、circumcision後の合併症を扱った文献でも、過剰に残されたinner preputial layer(内板)が術後浮腫に関係する可能性が指摘されています。
そのため当院では、小帯をただ大きく残すのではなく、必要な形態を保ちながら周囲の内板を適切に処理することを意識しています。
外板の切開デザインも仕上がりに影響します
もう一つが、外側の皮膚である外板のデザインです。
陰茎の皮膚には自然な方向やしわがあり、腹側には小帯という立体的な構造があります。
そのため、外板を不自然に尖った形で残したり、内板側との長さや形が大きく合わない状態で縫合したりすると、一部分に組織が集まったような形になる可能性があります。
特に腹側では、外板と内板をどのようにつなげるかによって、術後の輪郭が変わります。
ただし、ここは医学的な線引きも必要です。
「外板を尖らせすぎるとペリカン変形になる」ことを直接検証した研究は、現時点では十分にありません。
したがって、これは確立された単独の原因というより、手術デザイン上考慮すべき要素の一つと考えるのが適切です。
皮膚の自然な方向も考えながらデザインする
皮膚を切開して縫合すると、その後は傷が縮んだり、瘢痕が形成されたりしながら治っていきます。
そのため、もともとの皮膚の走行を大きく無視した切開や、局所に強い緊張がかかるデザインは避け、縫合したときに無理なく組織が合うように設計することが重要です。
これはペリカン変形だけを防ぐためではなく、傷跡や左右差、皮膚の引きつれなども含めた最終的な仕上がりを考えるうえで重要な手術の基本です。
「切りすぎない」と「残しすぎない」のバランスが重要
では、ペリカン変形を防ぐために小帯周辺をできるだけ切除すればよいのでしょうか。
そう単純ではありません。
包茎手術では、余剰組織を残しすぎないことが重要な一方、必要な組織まで過剰に切除しないことも同じくらい重要です。
特に小帯周辺では、
小帯の形態をどの程度温存するか
内板をどの程度残すか
外板をどのような形にするか
縫合したときに組織量の差が出ないか
を総合的に考える必要があります。
つまり、ペリカン変形を予防する手術とは、単に「たくさん切る手術」ではなく、残す組織と切除する組織のバランスを考えてデザインする手術だと考えています。
そして、手術が終わればそれで終わりではありません。
術直後にはまだ浮腫が起こるため、せっかく形を整えても、その後どのように圧迫・保護するかも重要になります。
術後の包帯・圧迫管理はペリカン変形の予防に関係する?
包茎手術では、手術そのものだけでなく、術後に創部をどのように管理するかも重要です。
特に小帯側は術後に浮腫が目立つことがあるため、当院では傷を保護するだけではなく、小帯周辺まで含めて適切に圧迫できているかを意識して包帯を巻いています。
ただし、最初に医学的な線引きをしておくと、
「小帯まで包帯を巻かなかったことが、ペリカン変形の原因になる」
と直接証明した研究があるわけではありません。
ここは、術後浮腫に対する圧迫の考え方と、実際の術後管理から考えられる要素として説明します。
圧迫には、出血だけでなく浮腫を抑える目的もあります
包茎手術後に包帯を巻く主な目的は、創部の保護と出血のコントロールです。
それに加えて、適度な圧迫によって、術後に組織液が過剰にたまることを抑える目的もあります。
前の記事で説明したように、包皮を切開すると炎症が起こり、リンパ液の流れも一時的に変化するため、傷の周囲には浮腫が起こりやすくなります。
術後浮腫の予防・管理についてのレビューでも、圧迫は術後管理の一つとして扱われています。
小帯側まで適切に圧迫することを意識しています
包帯を陰茎の周囲に巻いていても、小帯側の膨らんだ部分に十分な圧迫がかかっていないことがあります。
特に腹側は形が平坦ではないため、単純に包帯を一周させるだけでは、場所によって圧迫のかかり方に差が生じることがあります。
当院では、術後に小帯側だけ浮腫が強く残ることをできるだけ避けるため、創部全周だけでなく、小帯周辺まで適切に包帯が当たっていることを確認しています。
ただし、これは現時点では「ペリカン変形を予防することが臨床試験で証明された方法」というより、術後浮腫をできるだけ均一に管理するための当院の考え方です。
強く圧迫すればよいわけではありません
ここは非常に重要です。
浮腫を抑えたいからといって、包帯を強く巻けばよいわけではありません。
circumcision後には非常にまれではありますが、過度な圧迫が亀頭への血流障害に関与したと考えられる症例も報告されています。
そのため目指すのは、
「強い圧迫」ではなく「必要な部分に適切な圧迫」
です。
小帯側まで包帯を当てることと、陰茎全体を必要以上に締め付けることは別です。
包帯だけでペリカン変形を防げるわけではありません
ここまで読むと、
「きちんと圧迫すればペリカン変形は起こらないのでは?」
と思うかもしれません。
しかし、そう単純ではありません。
すでに説明したように、ペリカン変形には、
残された内板や小帯周辺の組織量
切開・縫合のデザイン
術後のリンパ流や浮腫
術後の圧迫管理
など、複数の要素が関係している可能性があります。
そもそも余剰組織が多く残っている場合、その組織自体を包帯だけでなくすことはできません。
したがって、手術時に腹側の組織量と形を整えたうえで、術後の浮腫を適切に管理するという両方が重要だと考えています。
そしてもう一つ気になるのが、術後の膨らみが長期間残った場合です。
最初は柔らかい「むくみ」だったものが、数か月経っても同じ状態で残っている場合、本当にずっと水分だけがたまっているのでしょうか。
長期間残ったペリカン変形は、まだ「むくみ」なのか?
術後早期の小帯側の膨らみは、炎症やリンパ流の変化によって起こる**浮腫(むくみ)**で説明できることが多いです。
では、数か月経っても同じような膨らみが残っている場合も、単純に「水分が残っているだけ」なのでしょうか。
ここは、ペリカン変形を考えるうえで重要なポイントです。
浮腫が長く続くと、組織そのものが変化することがあります
一般的なリンパ浮腫では、初期にはリンパ液などの水分が組織にたまることが中心です。
しかし、リンパ流の障害が長期間続くと、それだけではなく、組織の中で慢性的な炎症反応が起こることが知られています。
さらにその状態が続くと、線維芽細胞が活性化し、コラーゲンなどの細胞外基質が蓄積していきます。
簡単にいうと、
リンパ液がたまる
↓
炎症が長く続く
↓
組織の中にコラーゲンなどが増える
↓
徐々に硬く、厚い組織へ変化する
ということです。
これを**線維化(せんいか)**と呼びます。
慢性リンパ浮腫では、単純な水分貯留だけではなく、こうした線維化や脂肪組織の増加を伴うことが報告されています。
陰茎でも慢性リンパ浮腫による線維化は起こり得ます
このような変化は、腕や脚だけの話ではありません。
陰茎の慢性リンパ浮腫でも、長期間続くことで皮膚や皮下組織が厚くなり、保存的な治療だけでは改善せず、余剰組織の切除が必要になることがあります。
また、circumcision後に重度の慢性陰茎リンパ浮腫を生じた症例では、切除した組織の病理検査で間質浮腫だけでなく、慢性炎症や線維化が確認されています。
つまり少なくとも、陰茎のリンパ浮腫が長期間続けば、単なる「水分の貯留」ではなく組織そのものが変化することはあり得るわけです。
では、ペリカン変形も線維化しているのでしょうか?
ここは慎重に考える必要があります。
いわゆるペリカン変形について、
「術後○か月で浮腫が線維組織に置き換わる」
と直接証明した研究は、現時点では十分ではありません。
そのため、
ペリカン変形=線維化したリンパ浮腫
と断定することはできません。
そもそも長期間残っている膨らみには、最初から多く残されていた内板や小帯周辺の組織が含まれている可能性もあります。
したがって、実際には、
残された組織そのもの
+ 術後に生じた浮腫
+ 慢性化した場合の組織変化
が、それぞれ異なる割合で関係している可能性があります。
「時間が経てば必ず吸収される」とも言い切れません
ここが患者さんにとって重要です。
術後早期の柔らかい浮腫であれば、リンパ流や炎症が改善するにつれて自然に小さくなることが期待できます。
一方で、長期間ほとんど形が変わらず、組織として厚みが残っている場合には、いつまでも「むくみだから待てば消える」と考えるのは適切ではないことがあります。
ただし、どの時点から自然改善が期待しにくくなるのかについて、ペリカン変形に限定した明確な基準はありません。
そのため、術後からの期間だけではなく、
膨らみが小さくなっているか
柔らかさが変化しているか
全体の浮腫が引いたあとも同じ形が残っているか
内板や皮膚そのものが余って見えるのか
などを総合して判断する必要があります。
つまり、「術後早期のペリカンのような腫れ」と「長期間残ったペリカン変形」は、同じものとして扱わない方がよいと考えられます。
ペリカン変形は自然に治る?どのくらい待てばいい?
小帯側が大きく膨らんでいると、
「このまま残るのでは?」
「早めに修正した方がいい?」
と心配になると思います。
ただし、術後早期の膨らみを見ただけで、ペリカン変形として残ると判断することはできません。
まずは、通常の術後浮腫が落ち着いていく経過を見ることが大切です。
術後早期の膨らみは自然に小さくなることがあります
包茎手術後の浮腫は、術後1〜2週間程度残ることは珍しくなく、完全に落ち着くまで数週間かかる場合があります。
成人circumcisionを対象とした研究でも、軽度の浮腫は多くが2週間程度で改善する一方、強い浮腫では1〜3か月続いた症例も報告されています。
そのため、術後数週間の段階で小帯側が膨らんでいても、
「もう形として残ってしまった」
と判断するのは早い場合があります。
全体の腫れと一緒に小帯側の膨らみも少しずつ小さくなっているのであれば、まずは経過をみることができます。
「何か月経ったか」だけでは判断できません
では、何か月経てばペリカン変形と判断できるのでしょうか。
実は、「術後○か月以上ならペリカン変形」という医学的に確立された基準はありません。
そもそもペリカン変形自体が標準化された医学診断名ではないため、明確な診断時期についても十分な研究がありません。
そのため当院では、期間だけではなく、
膨らみが徐々に小さくなっているか
柔らかい浮腫が主体なのか
全体の腫れが引いたあとも腹側だけ突出しているか
内板や小帯周辺の組織そのものが余っているように見えるか
といった変化を見ながら判断します。
数か月経っても改善しているなら、まだ変化する可能性があります
術後の組織は、腫れが引けばすぐ完成するわけではありません。
創部ではその後も瘢痕の成熟が進み、硬さや厚み、色などが時間をかけて変化していきます。
そのため、数か月経過していても明らかに小さくなっている途中であれば、すぐに修正手術を行わず経過を見るという選択肢があります。
反対に、十分な期間が経過して全体の浮腫はほぼ消失しているにもかかわらず、腹側だけ同じ形・同じ大きさの膨らみが残っている場合には、単純な浮腫以外の要素も考えます。
早い時期に修正手術を急がない
見た目が気になると、「余っている部分を早く切ってほしい」と思うかもしれません。
しかし術後早期は、
浮腫
炎症
組織の硬さ
瘢痕の収縮
などがまだ変化している途中です。
この段階で修正すると、本当に切除すべき組織量を判断しにくいという問題があります。
また、治癒途中の組織へ再び手術を加えることになるため、緊急性がなければ、ある程度組織が落ち着いてから評価する方が合理的です。
自然に改善しにくい場合は、修正を検討することもあります
一方で、十分に経過をみても、
腹側の膨らみがほとんど変わらない
余剰組織が明らかに残っている
見た目が強く気になる
性交時などに物理的な問題がある
といった場合には、修正手術を検討することがあります。
ただし、単純に膨らんでいる部分だけを切ればよいとは限りません。
何が膨らみを作っているのかを確認し、内板・外板・小帯周辺の形を再度デザインすることが重要になります。
ペリカン変形はケナコルト注射で改善する?
ペリカン変形が長期間残っている場合、トリアムシノロン(ケナコルト)を局所注射する治療が行われることがあります。
ケナコルトはステロイド薬の一つで、肥厚性瘢痕やケロイドに対する治療として使用されています。
では、ペリカン変形にも効果が期待できるのでしょうか。
硬くなった瘢痕を軟らかくする効果は期待できます
トリアムシノロンの局所注射には、線維芽細胞の増殖やコラーゲン産生などを抑える作用があり、厚く硬くなった瘢痕を軟らかく、平坦にしていく目的で使用されます。
陰茎でも、包茎手術後に生じたケロイドや肥厚性瘢痕に対して、トリアムシノロン局注を使用した症例が報告されています。
そのため、長期間残ったペリカン変形の中でも、硬い瘢痕や線維化した組織が膨らみに関係していると考えられる場合には、治療の選択肢になる可能性があります。
ただし、「余った皮膚を縮める注射」ではありません
ここは非常に重要です。
ケナコルトによって瘢痕が軟らかくなったとしても、手術で多く残った内板や、すでに伸びて余っている皮膚そのものがなくなるわけではありません。
つまり、
硬さが改善することと
ペリカンのような形がなくなること
は別の問題です。
実際、当院でも状態に応じてケナコルト局注を行うことがありますが、硬さや瘢痕の改善は得られても、見た目の膨らみや伸びた皮膚まで十分に収縮するとは限らないと考えています。
そのため、ケナコルトを「ペリカン変形を元通りにする注射」と考えるのは適切ではありません。
術後早期の柔らかい浮腫に打つ治療ではありません
術後数日〜数週間の小帯側の膨らみは、まだ通常の術後浮腫である可能性があります。
この段階では自然に改善することも多く、単純な術後浮腫に対してケナコルト局注を行うことを支持する十分なエビデンスはありません。
ケナコルトを検討するとすれば、ある程度時間が経過したうえで、
膨らみが長く残っている
硬さがある
肥厚性瘢痕や線維化の関与が考えられる
といった場合です。
ペリカン変形そのものへの効果は、まだ確立されていません
もう一つ注意したいのが、エビデンスの限界です。
トリアムシノロン局注は肥厚性瘢痕やケロイドに対する治療として広く使用されており、包茎手術後の陰茎瘢痕に使用された報告もあります。
一方で、いわゆる**「ペリカン変形」を対象として、ケナコルト局注によってどの程度見た目が改善するのかを検証した研究は十分ではありません。**
そのため現時点では、
硬い瘢痕・線維化が主体 → ケナコルトを検討する余地がある
余剰皮膚・内板による形態変化が主体 → ケナコルトだけでは改善が難しい可能性がある
と分けて考えるのがよいでしょう。
ケナコルト注射にも副作用があります
ケナコルトは、たくさん打てばより改善するという治療ではありません。
局所注射では、皮膚の萎縮や陥凹、色素変化、毛細血管拡張などが起こることがあります。
特に陰茎は見た目も重要な部位です。
正常な組織まで過度に萎縮させてしまえば、かえって凹凸が目立つ可能性もあるため、注射する部位や量を慎重に判断する必要があります。
形として残った場合には、修正手術という選択肢もあります
このように、ペリカン変形に対するケナコルト注射は、硬くなった瘢痕を改善するための保存的な選択肢の一つとして考えることができます。
ただし、膨らみの原因が明らかな余剰皮膚や内板であれば、注射だけで形を整えることには限界があります。
十分に経過をみても形態的な問題が残り、本人が見た目や機能面で困っている場合には、余剰組織を切除して形を整える修正手術を検討することがあります。
ペリカン変形が残った場合、どんな修正手術をする?
十分に経過をみても小帯側の膨らみが残り、見た目や機能面で問題になる場合には、修正手術を検討することがあります。
ただし、ペリカン変形の修正は、
「膨らんでいる部分だけを切り取れば終わり」
というほど単純ではありません。
重要なのは、何が膨らみを作っているのかを確認し、周囲とのバランスを考えて再びデザインすることです。
まず「何が残っているのか」を確認します
同じようなペリカン変形に見えても、その原因は患者さんによって異なる可能性があります。
たとえば、
内板が多く残っている
小帯周辺の組織が厚く残っている
外板と内板の形や長さが合っていない
硬い瘢痕が形成されている
慢性的な浮腫や線維化が加わっている
などです。
前章で説明したように、硬い瘢痕が主体であればケナコルト局注を検討できる場合があります。
一方で、内板や皮膚そのものが余っている場合には、注射だけでその組織をなくすことはできません。
そのため、まずは膨らみが「硬い瘢痕」なのか、「余剰組織」なのか、あるいはその両方なのかを評価します。
修正手術では余剰組織を切除し、形を作り直します
内板や小帯周辺の組織が明らかに余っている場合には、余剰部分を切除して形を整えます。
このとき大切なのは、現在もっとも突出している部分だけを切り取らないことです。
周囲の外板・内板とのつながりを考えずに局所だけを切除すると、今度は皮膚の長さに差が生じたり、縫合部に無理な緊張がかかったり、新たな凹凸や引きつれにつながる可能性があります。
そのため、残っている組織の量だけではなく、切除後にどのような輪郭になるのかまで考えて切開線をデザインすることが重要です。
必要に応じて以前の瘢痕も含めて修正します
初回手術の縫合線に硬い瘢痕や不自然な凹凸がある場合には、その部分も含めて切除し、縫合線を作り直すことがあります。
つまり修正手術は、
ペリカン部分を小さくすること
だけではなく、
内板・外板・小帯・既存の瘢痕を含めて、腹側全体の形を整え直す手術
になることがあります。
どこまで修正する必要があるかは、初回手術の術式や残っている組織によって異なります。
小帯をすべて切除すればよいわけではありません
ペリカン変形が小帯周辺に起こるため、
「それなら小帯を全部なくしてしまえばいいのでは?」
と思うかもしれません。
しかし、必要以上に組織を切除すると、今度は皮膚不足や強い緊張、引きつれなど別の問題につながる可能性があります。
修正手術でも重要なのは、
残しすぎないことと、切りすぎないことのバランス
です。
小帯そのものだけを見るのではなく、周囲の内板・外板を含めて自然につながる形を目指します。
修正手術後にも、もう一度腫れは起こります
修正手術も、組織を切開・切除して縫合する手術です。
そのため当然、術後にはもう一度炎症や浮腫が起こります。
手術直後に小帯側が膨らんで見えても、
「修正したのにまたペリカン変形になった」
とすぐに判断することはできません。
初回手術と同じように、まずは術後浮腫が改善するのを待ち、組織が落ち着いてから最終的な形を評価する必要があります。
すべてのペリカン変形に修正手術が必要なわけではありません
多少の膨らみが残っていても、本人が気にならず、機能的な問題もなければ、必ず修正する必要はありません。
一方で、
十分な期間が経っても形がほとんど変わらない
見た目が強く気になる
下着との摩擦などで不快感がある
性交時に邪魔になる
硬い瘢痕や引きつれも伴っている
といった場合には、修正を検討する意味があります。
また、いわゆるペリカン変形に対する単一の標準的な修正術式が確立されているわけではありません。
だからこそ、単純に「ペリカンだからここを切る」と考えるのではなく、なぜその形になっているのかを評価して、それに合わせて修正方法を決めることが重要です。
ペリカン変形を予防するために重要なこと
ペリカン変形は、一度できてしまうと自然に改善するものもあれば、余剰組織や瘢痕が残り、修正手術が必要になるものもあります。
そのため、治療すること以上に、初回の包茎手術でできるだけ起こさないようにすることが重要です。
ただし、これまで説明してきたように、「この方法を行えばペリカン変形を完全に予防できる」という確立された方法があるわけではありません。
当院では、現在分かっている術後浮腫の原因と実際の手術経験から、特に以下の点を意識しています。
① 小帯側の内板を残しすぎない
まず重要なのが、小帯周辺にどの程度の内板を残すかです。
小帯を温存することと、小帯周辺の内板を多く残すことは同じではありません。
内板を必要以上に残せば、その組織自体が腹側のボリュームになります。さらに術後の浮腫が重なることで、小帯側の膨らみがより目立つ可能性があります。
文献でも、内板や小帯周辺の組織を過剰に残すことと、術後浮腫や腹側の余剰組織との関連が指摘されています。
そのため、必要な小帯の形態を考慮しながら、周囲に余分な組織を残しすぎないことが重要だと考えています。
② 外板と内板の形を合わせてデザインする
もう一つ重要なのが、切開線のデザインです。
特に腹側では小帯があるため、外板と内板を単純に同じように切って縫えばよいわけではありません。
外板を極端に尖った形で残したり、内板と外板の長さや形が大きく異なる状態で縫合したりすれば、局所に組織が集まった形になる可能性があります。
また、もともとの皮膚の走行やしわも考慮しながら、縫合したときに無理なく自然につながる形を作ることが大切です。
ただし、「特定の切開デザインがペリカン変形を防ぐ」と直接比較した研究は十分ではありません。この部分は、解剖と手術原則に基づいた術者側の工夫という位置づけになります。
③ 小帯周辺まで含めて術後の浮腫を管理する
どれだけ手術時に形を整えても、術後にはある程度の浮腫が起こります。
そのため当院では、創部を保護するとともに、小帯周辺まで適切に圧迫できるように包帯を巻くことを意識しています。
ここでも重要なのは、強く締め付けることではありません。
必要な部分に適度な圧迫を加えることが目的です。
過度な圧迫は血流障害につながる可能性があるため、「強く巻けば巻くほど腫れにくい」という考え方は適切ではありません。
④ 術後は陰茎を安定させておく
当院では術後、ボクサーパンツなど支持性のある下着を使用し、陰茎を腹部側へ向けて保持してもらっています。
支持性のある下着で陰茎を腹部側へ保持する方法は、成人circumcision後の腫れを軽減する方法としてUCLHの術後指導でも推奨されています。
包帯だけでなく、日常生活の中で創部を安定させることも術後管理の一つです。
⑤ 術後早期の腫れを見て、すぐに追加処置をしない
予防とは少し違いますが、これも重要です。
術後数日〜数週間の小帯側の膨らみは、まだ通常の浮腫である可能性があります。
この段階で、
「ペリカン変形になったから切り直す」
と判断するのは早い場合があります。
まずは適切な術後管理を続けながら、膨らみが時間とともに改善しているかを見ることが大切です。
完全にゼロにできるとは限りません
ここまで予防について説明しましたが、手術と術後管理を適切に行えば、ペリカン変形を必ず防げると断言することはできません。
術後の炎症や浮腫の程度、リンパ流、傷の治り方には個人差があります。
そのため当院では、
手術時に余剰組織を残しすぎない
自然な形になるよう切開・縫合する
術後は小帯側まで含めて適切に圧迫する
支持性のある下着で創部を安定させる
その後の経過まで確認する
という、手術から術後管理までを一連の治療として考えることが重要だと考えています。
ペリカン変形についてよくある質問
Q1. 手術後、裏側がぷっくり腫れています。ペリカン変形ですか?
術後早期であれば、すぐにペリカン変形と判断する必要はありません。
包茎手術後は、炎症やリンパ流の変化によって浮腫が起こります。特に小帯周辺の腫れが目立つこともあります。
まずは、時間とともに膨らみが小さくなっているかを見ることが大切です。
全体の腫れと一緒に腹側の膨らみも改善しているのであれば、一時的な術後浮腫である可能性があります。
Q2. どのくらい経ったらペリカン変形と判断できますか?
「術後○か月でペリカン変形」という明確な医学的基準はありません。
軽い術後浮腫は比較的早く改善しますが、強い浮腫では数か月続いた症例も報告されています。
そのため期間だけではなく、
全体の腫れが引いているのに小帯側だけ残っている
数週間〜数か月みてもほとんど形が変わらない
皮膚や内板そのものが余って見える
など、経過と実際の状態を合わせて判断します。
Q3. ペリカン変形は放っておけば自然に治りますか?
術後の浮腫が主体であれば、自然に目立たなくなる可能性があります。
一方、内板や小帯周辺の組織そのものが多く残っている場合には、腫れが引いても形が残ることがあります。
また、長期間続いたリンパ浮腫では、慢性炎症や線維化など組織自体の変化が起こることも知られています。
そのため、すべてのペリカン変形が時間だけで完全になくなるとは限りません。
Q4. 自分で揉んだりマッサージしたりすれば改善しますか?
術後早期に、腫れを早く引かせようとして自己判断で強く揉むことはおすすめしません。
まだ創部が治っている途中であり、強い刺激や牽引によって出血や創部トラブルにつながる可能性があります。
長期間残った膨らみについても、マッサージによって余った内板や皮膚そのものをなくせるわけではありません。
まずは何が膨らみを作っているのかを確認することが重要です。
Q5. ケナコルト注射をすれば治りますか?
ケナコルトは「余った皮膚を縮める注射」ではありません。
トリアムシノロン(ケナコルト)は、肥厚性瘢痕やケロイドを軟らかく、平坦にする目的で使用され、包茎手術後の陰茎瘢痕に使用された報告もあります。
そのため、硬い瘢痕や線維化した組織が膨らみに関係している場合には、選択肢となる可能性があります。
ただし、硬さが改善しても、余った皮膚や内板まで十分に収縮して見た目が元に戻るとは限りません。
また、ペリカン変形そのものに対する有効性は、現時点では十分に確立されていません。
Q6. ペリカン変形になったら、必ず修正手術が必要ですか?
いいえ。
多少膨らみが残っていても、本人が気にならず、機能的な問題がなければ、必ず修正する必要はありません。
また、術後早期でまだ改善している途中なら、まず経過を見ることもあります。
一方で、十分に経過をみても形が残り、見た目や不快感などが問題になっている場合には、修正手術を検討します。
Q7. 修正手術では、膨らんでいるところだけ切るのですか?
必ずしもそうではありません。
ペリカン変形では、
内板の余り
外板とのバランス
小帯周辺の組織
以前の手術による瘢痕
などが複合している場合があります。
そのため、突出している部分だけを単純に切除するのではなく、周囲とのつながりを考えて腹側全体を再デザインする必要がある場合があります。
Q8. ペリカン変形は手術の失敗ですか?
ペリカン変形があるというだけで、一律に「手術の失敗」と判断することはできません。
術後早期には通常の浮腫でも似た見た目になることがありますし、傷の治り方や浮腫には個人差もあります。
一方で、内板や小帯周辺の組織の残し方、切開・縫合のデザインなど、手術に関連する要素が影響する可能性もあります。
そのため、「ペリカンになった=失敗」「すべて体質の問題」と単純に考えるのではなく、術後経過と実際に残っている組織を評価することが大切です。
Q9. 他院で受けた包茎手術のペリカン変形でも相談できますか?
他院で手術を受けた場合でも、現在の状態を診察することで、
まだ浮腫の改善を待てそうなのか
瘢痕が主体なのか
余剰組織が残っているのか
保存的な対応が可能なのか
修正手術を検討した方がよいのか
を判断できる場合があります。
ただし、初回手術でどのような切開・処置が行われたか分からないこともあるため、実際の状態を確認したうえで治療方針を考えることが重要です。
まとめ|ペリカン変形は「術後の腫れ」と「残った形」を分けて考えることが大切です
包茎手術後に、小帯のある裏側だけがぷっくりと膨らんで見えることがあります。
このような状態は俗に**「ペリカン変形」**と呼ばれることがありますが、術後早期の膨らみがすべてペリカン変形として残るわけではありません。
手術直後〜数週間は、炎症やリンパ流の変化による一時的な浮腫でも、小帯側が大きく膨らんで見えることがあります。
まずは、時間とともに改善しているかを見ることが大切です。
一方で、全体の腫れが落ち着いたあとも小帯側だけに膨らみが残る場合には、単純な浮腫だけではなく、
小帯周辺に残された内板や組織の量
外板・内板の切開や縫合デザイン
リンパ流の変化
長期化した浮腫に伴う慢性炎症や線維化
など、複数の要素が関係している可能性があります。
特に、長期間残った膨らみをいつまでも「水がたまっているだけ」と考えるのは適切ではない場合があります。
慢性リンパ浮腫では、時間の経過とともに慢性炎症や線維化など、組織そのものに変化が起こることが知られています。
ただし、いわゆるペリカン変形そのものが同じ機序で線維化することを直接証明した研究は十分ではなく、ここは今後さらに研究が必要な部分です。
治療についても、状態によって考え方が変わります。
術後早期で改善傾向にあるなら、まずは経過をみます。
硬い瘢痕や線維化の関与が考えられる場合には、ケナコルト(トリアムシノロン)の局所注射を検討できることがあります。ただし、ケナコルトは余った皮膚を縮める治療ではないため、硬さが改善しても見た目の膨らみまで十分に改善するとは限りません。
そして、十分に経過をみても余剰組織による形態変化が残り、本人が困っている場合には、余分な組織を切除して腹側の形を整える修正手術が選択肢になります。
ペリカン変形について大切なのは、
「腫れているからすぐ修正する」でもなく、
「むくみだからいつまでも待てばよい」でもありません。
術後からどのくらい経っているのか、改善しているのか、何が膨らみを作っているのかを確認したうえで、経過観察・保存的治療・修正手術を使い分けることが重要です。
また、できてしまった後の治療だけでなく、初回手術の段階から小帯・内板の残し方、切開デザイン、術後の圧迫管理まで考えることも、ペリカン変形をできるだけ防ぐためには大切だと考えています。
医師からひとこと
包茎手術後に小帯側が大きく膨らんでいると、「手術に失敗したのではないか」「このまま残ってしまうのではないか」と不安になる方もいると思います。
ただ、術後早期の膨らみと、時間が経っても残るペリカン変形は分けて考える必要があります。
手術直後であれば、まずは浮腫が改善していくかを確認します。一方で、十分に時間が経っても形が残っている場合には、単なるむくみではなく、残っている内板や小帯周辺の組織、瘢痕などが関係している可能性があります。
また、治療も一つではありません。
硬い瘢痕が主体であればケナコルト注射を検討することがありますが、**注射で硬さが改善しても、余った皮膚まで縮んで見た目が元に戻るとは限りません。**形態的な問題が残る場合には、修正手術が必要になることもあります。
そして、ペリカン変形は治療だけでなく予防も重要だと考えています。
当院では、小帯を必要以上に大きく残さないこと、内板と外板のバランスを考えて切開すること、そして術後は小帯側まで適切に圧迫することなど、手術から術後管理まで含めて仕上がりを考えるようにしています。
「まだ待ってよい状態なのか」「治療した方がよいのか」は、術後の時期や実際に残っている組織によって変わります。
気になる膨らみがある場合には、見た目だけで自己判断せず、一度状態を確認してもらうとよいでしょう。
関連記事
包茎手術後の腫れはいつまで?|むくみの経過と注意したい症状
術後の腫れがどのくらい続くのか、通常の浮腫と受診した方がよい変化について詳しく解説しています。
包茎手術後の生活と注意点|シャワー・運動・飲酒・性行為はいつから?
術後の傷を悪化させないための過ごし方や、包帯管理、日常生活を再開するタイミングについて解説しています。
包茎手術の傷跡は残る?|傷の治り方と仕上がりまでの経過
術後の傷や硬さ、瘢痕が時間とともにどのように変化していくのかを解説しています。
包茎手術の術式を解説|環状切開・亀頭直下法などの違い
包茎手術でどのように包皮を切開・縫合するのか、代表的な術式や仕上がりの違いについて解説しています。
参考文献
- Kong FY, Liu XL. [Pathogenesis, prevention and management of edema after prepuce surgery]. Zhonghua Nan Ke Xue. 2018;24(8):740-743. PMID:30173436.
- Xiang B, Peng J, Shang X, Zu X, Li D. Concealed penis: A review of multilevel classification and surgical reconstruction techniques. BJUI Compass. 2025;6(1):e470. doi:10.1002/bco2.470.
- Jin XD, Lu JJ, Liu WH, Zhou J, Yu RK, Yu B, et al. Adult male circumcision with a circular stapler versus conventional circumcision: A prospective randomized clinical trial. Braz J Med Biol Res. 2015;48(6):577-582. doi:10.1590/1414-431X20154530.
- Lei JH, Liu LR, Wei Q, Xue WB, Song TR, Yan SB, et al. Circumcision with “no-flip Shang Ring” and “Dorsal Slit” methods for adult males: a single-centered, prospective, clinical study. Asian J Androl. 2016;18(5):798-802. doi:10.4103/1008-682X.157544.
- Kotb M, et al. Giant penile elephantiasis after circumcision: a devastating complication. BMJ Case Rep. 2013;2013:bcr2013200780.
- Buick TA, Abbas W, Munro FD. Literature review and case report of post-circumcision keloid management.Arab J Urol. 2019;17(4):314-317. doi:10.1080/2090598X.2019.1651016.
- Xie LH, Li SK, Li Q. Combined treatment of penile keloid: a troublesome complication after circumcision.Asian J Androl. 2013;15(4):575-576.
- Tam I, Sun L, Patel A, Woo L, Weaver J, Shah SD. Penile keloid formation post-circumcision: A case series and review of literature. Pediatr Dermatol. 2024;41(3):483-489. doi:10.1111/pde.15473.
- Ogawa R, Akita S, Akaishi S, Aramaki-Hattori N, Dohi T, Hayashi T, et al. Diagnosis and Treatment of Keloids and Hypertrophic Scars—Japan Scar Workshop Consensus Document 2018. Burns Trauma. 2019;7:39. doi:10.1186/s41038-019-0175-y.

