男性更年期障害(LOH症候群)とは?症状・原因・テストステロン低下を医師が解説
2026/10/14
「年齢のせい」で済ませていませんか?男性更年期を正しく知るために
「最近、以前より疲れやすくなった」
「仕事へのやる気や集中力が続かない」
「性欲が落ちた気がする」
「EDが気になるようになった」
こうした変化を感じたとき、「年齢のせいかな」と考える方は少なくありません。
しかし、中年以降の男性にみられる心身の不調の一部には、男性ホルモンであるテストステロンの低下が関係している可能性があります。
一般には「男性更年期」と呼ばれますが、医学的には**LOH症候群(Late-Onset Hypogonadism:加齢男性性腺機能低下症候群)**という言葉が用いられます。
ただし、疲労感や気分の落ち込み、EDなどがあるからといって、すべてが男性更年期というわけではありません。
これらの症状は、睡眠不足やストレス、肥満、睡眠時無呼吸症候群、糖尿病、甲状腺疾患、うつ状態など、さまざまな原因でも起こります。また、血液検査でテストステロンが低かったからといって、その数値だけで症状の原因を説明できるとも限りません。
そのため男性更年期を考える際には、
「どのような症状があるのか」
「テストステロン値はどうか」
「ほかに原因となる病気や生活習慣はないか」
を総合的に評価することが大切です。
日本では、日本泌尿器科学会と日本Men's Health医学会から「LOH症候群診療の手引き」が公表されています。一方、欧州泌尿器科学会(EAU)やEndocrine Societyなど海外のガイドラインでは、主に「男性性腺機能低下症(male hypogonadism)」として診断・治療について整理されています。
日本のLOH症候群と海外でいう男性性腺機能低下症は、完全に同じ概念ではありません。そのため本記事では、日本での男性更年期診療を基本としながら、海外のガイドラインや研究結果も踏まえて解説します。
この記事では、
-
男性更年期とはどのような状態なのか
-
テストステロンは何をしているホルモンなのか
-
男性更年期ではどのような症状がみられるのか
-
どのような人がテストステロン検査を考えた方がよいのか
-
男性更年期ではどのような検査・治療を行うのか
について、順番に説明していきます。
男性更年期障害とは?
「男性更年期」という言葉は広く使われるようになりましたが、実際にはその意味がやや曖昧なまま使われていることも少なくありません。
一般的には、40代以降などの中高年男性にみられる、
-
疲れやすい
-
やる気が出ない
-
性欲が落ちた
-
ED(勃起機能の低下)が気になる
-
イライラしやすい
-
集中力が続かない
-
筋力が落ちた
-
眠りが浅い
といった心身の変化をまとめて「男性更年期」と呼ぶことがあります。
医学的には、このような症状の一部に男性ホルモンであるテストステロンの低下が関係する状態があり、日本では主に**LOH症候群(Late-Onset Hypogonadism:加齢男性性腺機能低下症候群)**という概念で診療されています。
日本泌尿器科学会・日本Men's Health医学会の「LOH症候群 診療の手引き」では、LOH症候群は単純に「年齢を重ねた男性に起こる不調」というだけではなく、加齢と関連したアンドロゲン低下と、それに伴う症状やQOL(生活の質)の低下を考える病態として整理されています。
男性更年期は、女性の更年期と少し違う
「更年期」という言葉から、女性の更年期と同じようなものをイメージする方も多いかもしれません。
ただし、男性と女性ではホルモンの変化の仕方が大きく異なります。
女性では、閉経前後に卵巣機能が低下し、エストロゲンが比較的短期間のうちに大きく減少します。
一方、男性のテストステロンには、女性の閉経のように「この時期を境に急激に低下する」という明確な変化はありません。
一般的には加齢とともに徐々に低下する傾向がありますが、その程度には大きな個人差があります。
そのため、
「40代になったら男性更年期になる」
「50歳を過ぎたらテストステロンが低くなる」
と単純に決められるものではありません。
同じ年齢でも、十分なテストステロン値を保っている人もいれば、低下している人もいます。また、テストステロン値が比較的保たれていても、男性更年期に似た症状を感じている人もいます。
「加齢」だけが原因とは限らない
以前は、男性更年期というと「年齢とともに男性ホルモンが減ること」が中心に考えられがちでした。
しかし現在では、テストステロンの低下には加齢だけではなく、さまざまな要因が関係すると考えられています。
例えば、
-
肥満
-
運動不足
-
睡眠不足
-
睡眠時無呼吸症候群
-
糖尿病やメタボリックシンドローム
-
慢性疾患
-
強いストレス
-
一部の薬剤
-
精巣や下垂体などの病気
などです。
特に肥満や2型糖尿病などは、成人男性の低テストステロンと関連することが知られています。EAUの患者向け情報でも、成人後に発症する男性性腺機能低下症は、過体重や2型糖尿病を持つ男性でみられやすいことが説明されています。
つまり男性更年期を考える際には、単に、
「年齢のせいでテストステロンが減った」
と考えるのではなく、
なぜテストステロンが低下しているのか、ほかに症状の原因となるものがないか
まで確認することが重要です。
男性更年期の症状は全身に現れることがある
テストステロンは、性欲や勃起だけに関係するホルモンではありません。
筋肉、骨、脂肪、造血、気分、認知機能など、さまざまな身体機能と関係しています。
そのため、テストステロンが低下した男性では、
性機能に関する症状
-
性欲低下
-
ED
-
朝の自然な勃起の減少
身体に関する症状
-
疲労感
-
筋肉量・筋力の低下
-
体脂肪の増加
-
骨密度の低下
-
睡眠障害
精神・認知面の症状
-
活力の低下
-
気分の落ち込み
-
イライラ
-
集中力の低下
などがみられることがあります。
日本のLOH症候群診療の手引きでも、性欲・勃起機能の低下、疲労感や気分変調、睡眠障害、筋量・筋力低下、内臓脂肪増加、骨量低下などがLOH症候群に関連する症状・徴候として挙げられています。
ただし、症状があるだけでは男性更年期とは言えない
ここは非常に重要です。
疲労感や気分の落ち込み、ED、性欲低下などは、男性更年期だけに起こる症状ではありません。
例えば、
睡眠不足でも疲れや集中力低下は起こります。
仕事や家庭のストレスでも性欲が落ちることがあります。
うつ状態や不安症でも、意欲低下や性機能の変化がみられることがあります。
肥満、糖尿病、睡眠時無呼吸症候群は、テストステロン低下だけでなくEDそのものにも関係します。
そのため、症状だけをみて、
「男性更年期だからテストステロン補充をすればよい」
と考えるのは適切ではありません。
一方で、
「年齢のせいだから仕方ない」
と決めつける必要もありません。
現在の男性性腺機能低下症の診療では、症状とテストステロン値の両方を確認し、さらに背景にある生活習慣や病気などを含めて評価することが基本となっています。EAUの患者向け情報でも、低テストステロンに加えて疲労、性欲低下、ED、気分変化、集中力低下、睡眠障害などの症状がみられることが説明されています。
男性更年期を考えるうえで大切なのは、
「症状だけ」
「年齢だけ」
「テストステロンの数値だけ」
のどれか一つで判断しないことです。
症状、ホルモン値、年齢、体格、睡眠、生活習慣、基礎疾患などを総合的にみていく必要があります。
LOH症候群とは?
LOH症候群は、Late-Onset Hypogonadismの略で、日本語では一般に加齢男性性腺機能低下症候群と呼ばれます。
日本では「男性更年期」とほぼ同じ文脈で使われることが多い言葉ですが、厳密には単なる「中年男性の体調不良」ではありません。
LOH症候群では、加齢に伴う男性ホルモン環境の変化を背景として、性機能、身体症状、精神・心理症状などが現れ、生活の質が低下する状態を考えます。
ただし、ここで少し注意が必要です。
日本で使われる「LOH症候群」と、欧米のガイドラインで使われる「male hypogonadism(男性性腺機能低下症)」は、似ていますが完全に同じ概念ではありません。
日本では「症状」も重視してLOH症候群を考える
日本では、日本泌尿器科学会・日本Men's Health医学会による「LOH症候群 診療の手引き」が診療の大きな基準になります。
日本のLOH診療では、テストステロン値だけを見るのではなく、
-
性欲や勃起機能の低下
-
疲労感
-
活力低下
-
気分の変化
-
睡眠障害
-
筋力低下
-
内臓脂肪の増加
-
骨量低下
などの症状や徴候を含めて総合的に評価します。
つまり、
「テストステロンが低ければLOH」
という単純な考え方ではありません。
逆に、テストステロン値が明確な低値ではなくても、症状や背景によっては男性更年期として評価する必要がある場合があります。
この点が、日本のLOH診療の特徴の一つです。
海外では「男性性腺機能低下症」という考え方が中心
一方、欧州泌尿器科学会(EAU)やEndocrine Societyなどでは、主に**male hypogonadism(男性性腺機能低下症)**という概念が使われます。
こちらでは、
男性性腺機能低下症を示唆する症状・徴候があり、さらに適切な条件で測定したテストステロン値が一貫して低いこと
が診断の基本になります。
Endocrine Societyは、性腺機能低下症の診断について、症状・徴候があることに加えて、血清テストステロン濃度が明確かつ一貫して低値であることを求めています。
EAUでも、症状がある男性に対して総テストステロンを評価し、低値の場合には適切な条件で再確認することを基本としています。
したがって海外の考え方は、日本のLOH診療と比べると、**「症状+生化学的な低テストステロン」**という組み合わせをより明確に求める傾向があります。
日本と海外ではテストステロンの評価方法にも違いがある
もう一つ重要なのが、テストステロンの評価方法です。
テストステロンには、
-
総テストステロン(Total Testosterone:TT)
-
遊離テストステロン(Free Testosterone:FT)
などがあります。
日本では歴史的に、LOH症候群の評価に遊離テストステロンが比較的重視されてきました。
一方、海外ガイドラインでは、まず総テストステロンを基本として評価することが一般的です。
EAUでは、症状のある男性に対して朝の総テストステロンを測定し、必要に応じてSHBGなどを考慮した遊離テストステロン評価を追加する流れが示されています。
この違いには、測定方法や基準値、検査体制などの違いも関係しています。
そのため、日本の論文や診療の手引きで示される基準値を、そのまま海外ガイドラインの基準と比較することはできません。
「テストステロンが低い」だけでは原因までは分からない
もう一つ理解しておきたいのが、
低テストステロンは「病名」ではなく、身体のどこかの変化を反映している可能性がある
という点です。
男性のテストステロンは、脳の視床下部・下垂体と精巣が連携することで分泌されています。
そのため、テストステロンが低い場合には、
-
精巣そのものの機能低下
-
下垂体・視床下部からの刺激低下
-
肥満
-
糖尿病
-
睡眠障害
-
慢性疾患
-
栄養状態
-
薬剤
など、さまざまな原因が考えられます。
海外では、原因によって大きく、
原発性性腺機能低下症
と
続発性性腺機能低下症
に分類します。
原発性では主に精巣側に原因があり、続発性では視床下部や下垂体など、テストステロン分泌を指令する側に原因があります。
さらに近年では、肥満や慢性疾患などに伴って起こる**機能性性腺機能低下症(functional hypogonadism)**も重要視されています。
このタイプでは、原因となる肥満や睡眠、代謝異常などを改善することで、テストステロン値が改善する場合もあります。
LOH症候群と「単なる加齢」は同じではない
男性は年齢とともにテストステロン値が変化します。
しかし、
年齢が上がることそのものと、治療が必要な男性性腺機能低下症は同じではありません。
例えば、60歳でも症状がなく、テストステロン値も十分に保たれている男性はいます。
反対に、40代でも肥満、睡眠時無呼吸症候群、糖尿病、慢性的な睡眠不足などを背景として、テストステロンが低下していることがあります。
したがって、男性更年期を考えるときに重要なのは、
「何歳だから」ではなく、どのような症状があり、どのような背景があり、テストステロンがどのような状態なのか
を確認することです。
LOH症候群は「数値」だけで考えない
男性更年期の相談では、
「テストステロンはいくつなら正常ですか?」
という質問をよく受けます。
もちろん基準値は重要です。
しかし、テストステロン値には個人差があり、日内変動や測定条件の影響も受けます。また、同じ数値でも症状の強さは人によって異なります。
そのため実際の診療では、
症状
+
テストステロン値
+
年齢や生活背景
+
基礎疾患
+
必要に応じた追加検査
を組み合わせて考えることが大切です。
男性更年期診療では、単に「基準値より上か下か」を見るのではなく、その数値がその人の症状や身体の状態とどのように関係しているのかを考えていく必要があります。
テストステロンとはどんなホルモン?
男性更年期を理解するうえで中心になるのが、テストステロンという男性ホルモンです。
テストステロンというと、
「性欲に関係するホルモン」
「筋肉をつけるホルモン」
というイメージを持つ方が多いかもしれません。
もちろんこれらも重要な働きですが、実際にはテストステロンは、性機能だけではなく、筋肉、骨、血液、体脂肪、気分など、男性の身体のさまざまな機能に関係しています。
そのためテストステロンが低下した場合、症状も性欲低下やEDだけに限らず、全身に現れる可能性があります。
テストステロンは主に精巣で作られる
男性のテストステロンの大部分は、精巣にあるライディッヒ細胞で作られています。
ただし、精巣が単独でテストステロンを作っているわけではありません。
テストステロンの分泌は、
視床下部
↓
下垂体
↓
精巣
というホルモンの指令系統によって調節されています。
脳の視床下部からGnRHというホルモンが分泌されると、下垂体からLH(黄体形成ホルモン)が分泌されます。
このLHが精巣のライディッヒ細胞を刺激することで、テストステロンが作られます。
この仕組みは**視床下部―下垂体―性腺系(HPG axis)**と呼ばれます。
そのためテストステロンが低下している場合、その原因が必ずしも精巣にあるとは限りません。
精巣そのものの機能低下だけでなく、視床下部や下垂体から十分な指令が出ていない場合にも、テストステロンは低下します。
この違いは、低テストステロンの原因を考えるうえで重要です。
テストステロンは性欲や性機能に関係する
テストステロンの働きとして、最もイメージしやすいのが性機能との関係です。
テストステロンが低下した男性では、
-
性欲の低下
-
性的な関心の低下
-
朝の自然な勃起の減少
-
ED
などがみられることがあります。
Endocrine Societyでも、男性性腺機能低下症でみられる代表的な症状として、性欲低下、ED、自然な勃起の減少などを挙げています。
ただし、ここでも注意が必要です。
ED=テストステロン不足ではありません。
勃起には血管、神経、心理状態、生活習慣、薬剤などさまざまな要素が関係しています。
糖尿病、高血圧、喫煙、動脈硬化、ストレスなどでもEDは起こります。
そのため、EDがある男性全員にテストステロン補充療法を行えば改善する、というわけではありません。
一方で、EDに加えて性欲低下や朝立ちの減少、疲労感などがある場合には、テストステロンを確認することが原因を考える一つの手がかりになります。
筋肉量や筋力にも関係する
テストステロンは筋肉の維持にも関係しています。
テストステロンが低下した男性では、
-
筋肉量の減少
-
筋力低下
-
身体活動性の低下
などがみられることがあります。
一方、性腺機能低下症の男性に適切なテストステロン補充療法を行うと、除脂肪体重や筋肉量が増加することが報告されています。
Endocrine Societyのガイドラインでも、適切に診断された男性性腺機能低下症に対するテストステロン治療によって、筋肉量や筋力の改善が期待できることが示されています。
ただし、
「テストステロンを投与すれば誰でも筋肉がつく」
という意味ではありません。
運動習慣、栄養状態、年齢、基礎疾患などによっても筋肉量は大きく変わります。
男性更年期診療では、テストステロンだけではなく、運動や食事を含めた生活習慣を一緒に考えることが重要です。
体脂肪や体組成とも関係する
テストステロンと体脂肪には、双方向の関係があります。
テストステロンが低下すると、除脂肪体重が減少し、脂肪量が増える傾向があります。
一方で、肥満そのものがテストステロン低下の原因になることもあります。
つまり、
テストステロン低下
↓
筋肉量低下・脂肪増加
↓
肥満や代謝異常
↓
さらにテストステロンが低下
という悪循環が生じる可能性があります。
実際、2026年のEndocrine Societyの声明でも、肥満を背景とした性腺機能低下症では、減量が第一選択となるケースがあることが示されています。
そのため男性更年期では、血液検査だけでなく、体重、BMI、腹囲、筋肉量、体脂肪率などの体組成を確認することにも意味があります。
骨を維持する働きもある
テストステロンは骨代謝にも関係しています。
長期間にわたってテストステロンが低い状態が続くと、骨密度が低下し、骨粗しょう症のリスクが高くなることがあります。
男性では女性ほど骨粗しょう症が注目されないことがありますが、男性性腺機能低下症は骨量低下の原因の一つです。
低テストステロンが明らかな男性では、テストステロン治療によって骨密度が改善することが報告されています。ただし、テストステロン補充療法を骨粗しょう症そのものの第一選択治療として考えるわけではありません。
男性更年期の症状として「骨が弱くなった」と自覚することは難しいため、長期間の性腺機能低下が疑われる場合には注意が必要です。
赤血球を作る働きにも関係する
テストステロンには、赤血球を増やす方向に働く作用もあります。
そのため、男性性腺機能低下症では貧血がみられることがあります。
反対に、テストステロン補充療法によって赤血球産生が促進されるため、治療中にはヘモグロビンやヘマトクリットが上昇することがあります。
これは治療効果の一面でもありますが、上がりすぎると多血症につながる可能性があります。
そのためTRTを行う場合には、治療前だけでなく治療中も定期的な血液検査が重要になります。
この点については、TRTの副作用やモニタリングの記事で詳しく解説します。
気分や活力との関係
低テストステロンでは、
-
活力低下
-
疲労感
-
集中力低下
-
イライラ
-
抑うつ気分
などがみられることがあります。
ただし、こうした症状はテストステロン低下に特有ではありません。
睡眠不足、過労、ストレス、うつ病、不安障害、甲状腺疾患、貧血などでも同じような症状が起こります。
そのため、
「やる気が出ない=テストステロン不足」
と判断することはできません。
特に精神・心理症状が中心の場合には、ほかの原因がないかを含めて評価することが重要です。
テストステロンは「男らしさ」だけを決めるホルモンではない
テストステロンについては、「男性らしさ」「性欲」「筋肉」といったイメージが先行しがちです。
しかし医学的には、テストステロンはもっと幅広く、
性機能
筋肉
骨
体脂肪
造血
活力や気分
などに関係するホルモンです。
一方で、テストステロンだけですべての体調を説明できるわけでもありません。
男性更年期を考える際には、
「テストステロンが高いか低いか」だけを見るのではなく、その人の症状や生活習慣、体組成、睡眠、基礎疾患などと合わせて評価すること
が大切です。
なぜテストステロンは低下する?
テストステロンは加齢とともに低下する傾向があります。
そのため、「男性更年期=年齢のせい」と考えられがちですが、実際にはそれほど単純ではありません。
テストステロン値は、
-
年齢
-
肥満
-
運動習慣
-
睡眠
-
睡眠時無呼吸症候群
-
糖尿病やメタボリックシンドローム
-
慢性疾患
-
薬剤
-
精巣の機能
-
視床下部・下垂体の機能
など、さまざまな要因の影響を受けます。
特に近年では、**肥満や生活習慣、併存疾患に伴う「機能的なテストステロン低下」**が重要視されています。
つまり、テストステロンが低いからといって、必ずしも「年齢によって精巣の機能が落ちた」とは限りません。
原因によっては、体重、睡眠、基礎疾患などを改善することで、テストステロン値が改善する場合もあります。
加齢によってテストステロンは少しずつ変化する
男性のテストステロンは、一般的に若年成人期をピークとして、その後は年齢とともに徐々に低下する傾向があります。
ただし、その変化にはかなり個人差があります。
年齢を重ねても比較的高いテストステロン値を維持している人もいれば、比較的若い年代から低値になる人もいます。
また、加齢に伴って変化するのは精巣の機能だけではありません。
テストステロンは血液中でSHBG(性ホルモン結合グロブリン)などのタンパク質と結合して存在していますが、SHBGも年齢や肥満、肝機能、甲状腺機能などによって変化します。
そのため、単純に「年齢が上がれば一定の割合でテストステロンが低下する」と考えることはできません。
現在では、加齢そのものだけではなく、年齢とともに増えやすい肥満や慢性疾患、睡眠障害などの影響も一緒に考える必要があるとされています。
肥満はテストステロン低下の重要な原因
テストステロンとの関係で特に重要なのが肥満です。
肥満の男性では、低テストステロンがみられる割合が高いことが知られています。
Endocrine Societyでも、男性性腺機能低下症は高齢男性だけでなく、肥満や2型糖尿病のある男性で多くみられるとされています。
肥満によってテストステロンが低下する仕組みは一つではありません。
脂肪組織の増加によるホルモン環境の変化、インスリン抵抗性、炎症、SHBGの低下、視床下部・下垂体―精巣系への影響など、複数の要因が関係すると考えられています。
特に肥満ではSHBGが低下しやすいため、総テストステロンが低く見える場合があることにも注意が必要です。
そのため、肥満がある男性で総テストステロンが低かった場合には、その数値だけで直ちに性腺機能低下症と判断せず、症状や必要な追加検査を含めて評価することが重要です。
「太るとテストステロンが下がり、テストステロンが下がるとさらに太る」ことも
肥満とテストステロンには、双方向の関係があります。
肥満によってテストステロンが低下する一方、低テストステロンでは筋肉量が減少し、脂肪量が増加しやすくなることがあります。
そのため、
肥満
↓
テストステロン低下
↓
筋肉量・活動量低下
↓
体脂肪増加
↓
さらに代謝状態が悪化
という悪循環が生じる可能性があります。
一方で、肥満を背景とした低テストステロンでは、減量によってテストステロン値が改善することもあります。
2026年のEndocrine Societyの声明でも、過体重・肥満を背景とし、ほかに明確な原因がない性腺機能低下症では、体重減少を第一選択として考えることが示されています。
AUA(米国泌尿器科学会)のガイドラインでも、テストステロン欠乏症の男性に対して、減量や身体活動などの生活習慣改善によってテストステロン値や症状が改善する可能性を説明することが推奨されています。
したがって、男性更年期診療ではテストステロンの数値だけを見るのではなく、BMI、腹囲、体脂肪率、筋肉量などの体組成も一緒に確認する意味があります。
睡眠不足もテストステロンに影響する
睡眠もテストステロン分泌と深く関係しています。
テストステロン分泌には日内変動があり、睡眠中のホルモン分泌とも関連しています。
慢性的な睡眠不足や睡眠リズムの乱れが続けば、テストステロン分泌に影響する可能性があります。
また睡眠不足そのものでも、
-
疲労感
-
集中力低下
-
活力低下
-
性欲低下
-
気分の変化
など、男性更年期と非常によく似た症状が現れます。
そのため、疲労感や活力低下を訴える方では、
「何時間眠っているか」だけでなく、「きちんと眠れているか」
を確認することも大切です。
睡眠時無呼吸症候群(SAS)にも注意
男性更年期との関連で特に見逃したくないのが、**睡眠時無呼吸症候群(SAS)**です。
睡眠時無呼吸症候群では、睡眠中に呼吸が繰り返し止まることで睡眠の質が低下します。
その結果、
-
日中の眠気
-
疲労感
-
集中力低下
-
活力低下
-
ED
などが起こることがあり、男性更年期の症状と重なる部分が非常に多くあります。
さらに、SASは肥満や代謝異常とも関連し、低テストステロンを伴うことがあります。
2026年のEndocrine Societyの教育資料でも、睡眠障害はテストステロン低下を含む内分泌・代謝系への影響があり、閉塞性睡眠時無呼吸症候群では肥満や性腺機能低下症との関連が指摘されています。
このため、
いびきが大きい
睡眠中に呼吸が止まると言われる
日中に強い眠気がある
肥満がある
といった場合には、テストステロンだけでなくSASの評価も検討する必要があります。
また、未治療の重症閉塞性睡眠時無呼吸症候群は、Endocrine Societyのガイドラインではテストステロン補充療法を開始しない条件の一つとして挙げられています。
糖尿病・メタボリックシンドロームとの関係
2型糖尿病やメタボリックシンドロームも、低テストステロンと関連しています。
特に、
-
内臓脂肪型肥満
-
インスリン抵抗性
-
2型糖尿病
などを持つ男性では、低テストステロンがみられることがあります。
ただし、ここでも因果関係は一方向ではありません。
肥満や糖代謝異常によってテストステロンが低下する一方、低テストステロンが体組成や代謝に影響する可能性もあります。
そのため、男性更年期の評価では血糖値やHbA1cなどを確認することにも意味があります。
ただし、糖尿病を改善する目的だけでテストステロン補充療法を行うものではありません。
Endocrine Societyは、低テストステロンを伴う2型糖尿病男性に対して、血糖コントロール改善を目的としてTRTを使用することは推奨していません。
慢性疾患や体調不良でも低下することがある
テストステロンは、身体全体の状態からも影響を受けます。
例えば、
-
慢性腎臓病
-
慢性肝疾患
-
HIV感染症
-
重い全身疾患
-
強い栄養不足
などでは、低テストステロンがみられることがあります。
また、急性疾患や強い身体的ストレスのある時期には、一時的にテストステロンが低下する可能性があります。
そのため、発熱や重い体調不良の最中に測定したテストステロンが低かったからといって、その1回だけで慢性的な性腺機能低下症と判断するのは適切ではありません。
薬剤によってテストステロンが低下することもある
服用している薬によって、テストステロン分泌が影響を受ける場合もあります。
代表的なものとして、
-
オピオイド系鎮痛薬
-
一部の副腎皮質ステロイド
などがあります。
Endocrine Societyでも、オピオイドやコルチコステロイドなどを低テストステロンの原因となり得る薬剤として挙げています。
また、過去にアナボリックステロイドや外因性テストステロンを使用していた場合には、自分自身の視床下部―下垂体―精巣系が抑制され、使用中止後もテストステロン分泌が十分に回復しないことがあります。
男性更年期の診察では、現在使用している薬だけでなく、サプリメントやホルモン製剤を含めた過去の使用歴を確認することも重要です。
精巣そのものに原因がある場合
精巣が十分なテストステロンを作れなくなる状態を、原発性性腺機能低下症と呼びます。
原因には、
-
精巣の障害
-
精巣炎
-
外傷
-
化学療法・放射線治療
-
遺伝的な疾患
などがあります。
このような場合には、精巣にテストステロン産生を促すLHが高くなることがあります。
単なる「加齢による男性更年期」とは原因が異なるため、必要に応じてLHなどのホルモンを追加して評価します。
下垂体や視床下部に原因がある場合
反対に、精巣そのものではなく、テストステロンを作るよう指令を出す視床下部や下垂体に原因がある場合があります。
これを続発性性腺機能低下症と呼びます。
例えば、
-
下垂体疾患
-
高プロラクチン血症
-
視床下部・下垂体の障害
などが原因になります。
この場合はテストステロンが低くても、LHが十分に上昇していないことがあります。
Endocrine Societyも、性腺機能低下症が確認された男性ではLH・FSHを測定し、原発性か続発性かを区別したうえで原因検索を行うことを推奨しています。
「低テストステロン=すぐTRT」ではない
ここまで見てきたように、テストステロンが低下する原因は一つではありません。
特に、
肥満
睡眠不足
睡眠時無呼吸症候群
糖代謝異常
薬剤
など、改善可能な要因が背景にあることもあります。
そのため男性更年期診療では、
テストステロンが低い
↓
すぐテストステロン補充療法
という流れではなく、
症状を確認する
↓
適切な条件でテストステロンを測定する
↓
低下している場合は原因を考える
↓
改善できる要因があれば介入する
↓
必要に応じてTRTを検討する
という考え方が重要です。
自由診療で男性更年期を診る場合でも、治療の選択肢を広く持つことと、テストステロン注射を安易に行うことは別です。
テストステロン値だけでなく、体重・体組成、睡眠、SAS、糖代謝、生活習慣、基礎疾患などを含めて評価することで、その人に合った治療方針を考えることができます。
男性更年期でみられる症状
男性更年期では、症状が一つだけ現れるとは限りません。
性欲低下やEDなどの性機能症状に加えて、
-
疲れやすい
-
やる気が出ない
-
集中力が続かない
-
眠りが浅い
-
筋力が落ちた気がする
といった身体・精神面の変化が重なって現れることがあります。
一方で、これらの症状の多くは男性更年期だけに特有のものではありません。
そのため、「症状がいくつあるか」だけで男性更年期と判断することはできず、症状の内容や経過、テストステロン値、生活背景などを合わせて考える必要があります。
性欲の低下
テストステロン低下と比較的関連が深い症状の一つが、性欲の低下です。
以前と比べて、
-
性的なことへの関心が減った
-
性行為をしたいと思うことが少なくなった
-
パートナーとの性行為に積極的になれなくなった
といった変化として自覚することがあります。
Endocrine SocietyやEAUでも、低テストステロンに伴う代表的な症状として性欲低下が挙げられています。
ただし、性欲はテストステロンだけで決まるものではありません。
ストレス、パートナーとの関係、睡眠不足、うつ状態、薬剤などでも低下します。
そのため、「性欲が落ちた=必ずテストステロン不足」と考えることはできません。
一方で、性欲低下に加えて疲労感や朝の自然な勃起の減少などがみられる場合には、テストステロンを確認する一つのきっかけになります。
ED(勃起機能の低下)
EDも、男性更年期の相談でよくみられる症状です。
具体的には、
-
勃起しにくくなった
-
勃起しても維持しにくい
-
硬さが以前より弱くなった
などがあります。
低テストステロンではEDがみられることがありますが、EDの原因は非常に多様です。
血管障害、糖尿病、高血圧、喫煙、薬剤、ストレス、不安などでもEDは起こります。
そのため、EDがあるからといってテストステロン低下が原因とは限りません。
一方で、EDに加えて性欲低下や自発的な勃起の減少などがある場合には、男性性腺機能低下症の可能性を考える材料になります。Endocrine Societyでも、EDおよび自発勃起の減少を低テストステロンに伴う症状として挙げています。
朝立ちや自然な勃起の減少
男性更年期を考えるうえで、朝の自然な勃起が減ったかどうかも一つの参考になります。
性行為の場面で起こるEDは、緊張や心理的要因の影響を受けやすい一方、朝立ちや睡眠中の自然な勃起は、本人の意思とは関係なく起こります。
そのため、
「性欲も落ちてきた」
「朝立ちもかなり減った」
という組み合わせは、テストステロンを含む身体的な要因を考えるきっかけになります。
ただし、朝立ちは睡眠の質にも影響されるため、減少したからといって必ずテストステロン低下というわけではありません。
疲労感・エネルギーの低下
男性更年期でよく聞かれるのが、
「以前より疲れやすくなった」
「寝ても疲れが取れない」
「夕方になると動けない」
といった疲労感です。
低テストステロンでは、エネルギー低下や疲労感がみられることがあります。EAUやEndocrine Societyの患者向け情報でも、疲労やエネルギー低下は男性性腺機能低下症に伴い得る症状として挙げられています。
しかし、疲労感は非常に非特異的な症状です。
例えば、
-
睡眠不足
-
睡眠時無呼吸症候群
-
過労
-
貧血
-
甲状腺疾患
-
糖尿病
-
感染症
-
うつ状態
などでも起こります。
そのため、疲労感だけを根拠に男性更年期と判断するのは適切ではありません。
やる気・活力の低下
「昔ほど仕事に熱が入らない」
「休日に何もする気が起きない」
「以前より行動力が落ちた」
と感じる方もいます。
低テストステロンでは、エネルギーや活力の低下がみられることがあります。
ただし、これもテストステロンだけで決まる症状ではありません。
仕事や家庭環境によるストレス、睡眠不足、うつ状態などとの区別が重要です。
特に、
「何をしても楽しめない」
「強い抑うつ気分が続く」
といった症状が強い場合には、男性更年期以外の原因も含めた評価が必要になります。
集中力や認知面の変化
男性更年期の相談では、
「集中力が続かなくなった」
「頭がぼんやりする」
「仕事の効率が落ちた気がする」
といった訴えもあります。
EAUの患者向け情報でも、成人男性の性腺機能低下症に関連する症状として集中力低下が挙げられています。
ただし、集中力は睡眠、ストレス、疲労、精神状態などから強く影響を受けます。
そのため、集中力低下のみからテストステロン低下を疑うのではなく、ほかの症状と合わせて考えることが重要です。
気分の落ち込み・イライラ
低テストステロンの男性では、
-
気分の落ち込み
-
イライラ
-
気分の変化
などを訴えることがあります。
Endocrine Societyは男性性腺機能低下症の症状として、イライラ、集中困難、抑うつ気分などを挙げています。
ただし、これらも男性更年期特有の症状ではありません。
2026年のEndocrine Societyの声明でも、低エネルギー、性欲低下、気分症状などは加齢男性でよくみられるものの原因は多様であり、症状だけでは性腺機能低下症と診断できないことが改めて強調されています。
そのため、精神症状が強い場合には、テストステロンだけに原因を求めないことが大切です。
筋肉量・筋力の低下
テストステロンは筋肉の維持に関係しています。
そのため低テストステロンが続くと、
-
筋肉量の減少
-
筋力の低下
-
運動能力の低下
などがみられることがあります。
例えば、
「以前と同じ運動をしているのに筋肉が落ちた」
「階段がしんどくなった」
「体重は変わらないのに身体がたるんできた」
と感じることがあります。
EAUでも、男性性腺機能低下症の症状として筋肉量の減少が挙げられています。
ただし、加齢によるサルコペニアや運動不足、栄養不足などでも筋肉量は低下するため、体組成を含めて評価することが重要です。
体脂肪の増加・体型の変化
低テストステロンでは、除脂肪体重が減少し、脂肪量が増加する方向に体組成が変化することがあります。
その結果、
「体重はそれほど変わっていないのにお腹が出てきた」
「筋肉が減って脂肪が増えた気がする」
と感じることがあります。
ただし、前の章で説明したように、肥満そのものがテストステロンを低下させることもあります。
つまり、
テストステロン低下と肥満は、お互いに影響し合う可能性があります。
そのため、男性更年期の評価では体重だけでなく、BMI、腹囲、筋肉量、体脂肪率なども参考になります。
睡眠の問題
男性更年期では、
-
寝つきが悪い
-
夜中に目が覚める
-
熟睡感がない
といった睡眠の問題を訴えることもあります。
EAUの患者向け情報でも、睡眠障害は成人男性の性腺機能低下症に伴う症状の一つとして挙げられています。
ただし、睡眠については特に注意が必要です。
テストステロン低下によって睡眠に影響が出る可能性がある一方で、睡眠不足や睡眠時無呼吸症候群そのものがテストステロンや日中の体調に影響するためです。
いびきや無呼吸、強い日中の眠気などがある場合には、男性更年期だけではなく睡眠時無呼吸症候群の評価も重要になります。
骨密度低下や貧血は自覚症状がないこともある
長期間の低テストステロンでは、骨密度低下や貧血などがみられることがあります。
Endocrine Societyでも、低テストステロンが長期間続くことで、骨が弱くなることや赤血球が減少することが示されています。
これらは性欲低下や疲労感とは違い、初期には本人が自覚しにくいことがあります。
そのため、明らかな性腺機能低下症が疑われる場合には、症状だけでなく検査による評価も重要です。
強いテストステロン低下では、ほてりが起こることもある
男性でも、テストステロンが非常に低い状態では、ほてりや発汗がみられることがあります。
Endocrine SocietyやEAUも、男性性腺機能低下症の症状としてほてりを挙げています。
ただし一般的な男性更年期相談では、性欲低下や疲労感などに比べれば頻繁にみられる症状ではなく、強いアンドロゲン欠乏がある場合などに注意する症状です。
どの症状があれば男性更年期を疑う?
一つの症状だけで判断することはできませんが、
性欲が明らかに落ちた
+
朝立ちが減った
+
以前より疲れやすい
など、複数の変化が同時にみられる場合には、一度テストステロンを含めて身体の状態を確認する意義があります。
特に性欲低下や自発的な勃起の減少などの性機能に関する変化は、疲労感や気分症状に比べるとテストステロン低下を考えるうえで重要な手がかりになります。
一方、
「疲れる」
「やる気が出ない」
「眠れない」
といった症状だけの場合には、テストステロンだけでなく、睡眠、ストレス、精神状態、貧血、甲状腺機能、糖代謝など、ほかの原因も幅広く考える必要があります。
男性更年期では、症状の数よりも、どのような症状がどのような組み合わせで現れているのかを見ることが重要です。
「疲れやすい=男性更年期」ではない
男性更年期の相談で多い症状の一つが、疲労感や活力低下です。
「朝からだるい」
「仕事が終わるころにはぐったりする」
「以前より集中力が続かない」
「休日も何もする気が起きない」
こうした症状は、たしかに男性更年期でもみられることがあります。
しかし、疲労感や意欲低下は非常に幅広い病気や生活習慣によって起こるため、これらの症状だけで男性更年期と判断することはできません。
特に自由診療で男性更年期を評価する場合でも、「テストステロンが低いかどうか」だけではなく、ほかに症状を説明できる原因がないかを確認することが重要です。
睡眠不足・睡眠の質の低下
まず確認したいのが、睡眠です。
睡眠時間が短いだけでも、
-
疲労感
-
集中力低下
-
日中の眠気
-
気分の落ち込み
-
性欲低下
などが起こります。
さらに、睡眠の質が悪い場合には、十分な時間眠っていても疲労感が残ることがあります。
特に、
-
夜中に何度も目が覚める
-
朝起きても熟睡感がない
-
日中に強い眠気がある
といった場合には、単純な睡眠不足だけではなく、睡眠障害が隠れている可能性もあります。
睡眠時無呼吸症候群(SAS)
中高年男性で特に注意したいのが、**睡眠時無呼吸症候群(SAS)**です。
SASでは、睡眠中に気道が塞がることで呼吸が繰り返し止まり、睡眠の質が大きく低下します。
その結果、
-
強い日中の眠気
-
疲労感
-
集中力低下
-
活力低下
-
ED
などがみられることがあります。
これらは男性更年期の症状とかなり重なります。
また、SASは肥満や高血圧、糖代謝異常などとも関連するため、男性更年期を疑って受診した方の中にSASが隠れていることもあります。
「いびきが大きい」
「寝ているときに呼吸が止まっていると言われた」
「昼間に眠くて仕方がない」
といった場合には、テストステロンだけでなくSASの評価も重要です。
貧血
貧血でも、
-
疲れやすい
-
息切れ
-
動悸
-
集中力低下
-
倦怠感
などが起こります。
男性では女性に比べて鉄欠乏性貧血は少ないため、明らかな貧血がある場合には、消化管出血など原因検索が必要になることもあります。
一方で、テストステロンは赤血球産生にも関係しているため、性腺機能低下症そのものに軽度の貧血を伴うこともあります。
そのため、疲労感が強い場合には、テストステロンだけでなく血算を確認することにも意味があります。
甲状腺機能異常
甲状腺ホルモンも、全身の代謝やエネルギーに大きく関係しています。
特に甲状腺機能低下症では、
-
疲労感
-
気分の落ち込み
-
眠気
-
体重増加
-
寒がり
-
集中力低下
-
性欲低下
などがみられることがあります。
これらは男性更年期とかなり似ています。
反対に甲状腺機能亢進症でも、動悸、不眠、疲労感、体重減少などが出ることがあります。
症状や背景によっては、TSHや甲状腺ホルモンを確認することが重要です。
糖尿病・血糖異常
糖尿病や血糖コントロール不良でも、
-
疲労感
-
倦怠感
-
眠気
-
ED
-
集中力低下
などがみられることがあります。
また、2型糖尿病や肥満は低テストステロンとも関連しています。
つまり、
糖尿病によって疲れやEDが出ているのか、低テストステロンが関係しているのか、あるいは両方が重なっているのか
を考える必要があります。
男性更年期の評価では、血糖値やHbA1cを確認することで、症状の背景を整理しやすくなる場合があります。
うつ病・不安・強いストレス
気分の落ち込み、やる気の低下、集中力低下、性欲低下などは、うつ病や不安障害でもみられます。
仕事、人間関係、家庭環境などによる慢性的なストレスでも、似た症状が現れることがあります。
特に、
-
何をしても楽しめない
-
強い抑うつ気分が続く
-
不安が強い
-
眠れない
-
食欲が大きく変化した
といった症状が目立つ場合には、男性更年期だけに原因を求めないことが重要です。
テストステロン低下とうつ症状が併存することもありますが、両者は別々に評価する必要があります。
薬剤の影響
服用している薬によっても、
-
疲労感
-
性欲低下
-
ED
-
眠気
-
気分変化
などが起こることがあります。
また一部の薬剤は、テストステロン分泌そのものに影響する可能性があります。
そのため、男性更年期を評価する際には、
現在飲んでいる薬だけでなく、過去に使用していたホルモン製剤やアナボリックステロイドなども含めて確認すること
が重要です。
肝臓・腎臓などの慢性疾患
慢性肝疾患や慢性腎臓病などでも、疲労感や倦怠感がみられることがあります。
さらに、慢性疾患そのものがホルモン環境に影響し、テストステロンが低下する場合もあります。
そのため、男性更年期の評価では、
-
肝機能
-
腎機能
-
血糖
-
貧血
-
甲状腺機能
などを症状や既往歴に応じて確認することで、テストステロン以外の原因を見つけやすくなります。
「男性更年期らしい症状」があっても、原因は一つとは限らない
実際には、
睡眠不足
+
肥満
+
SAS
+
低テストステロン
のように、複数の要因が重なっていることも珍しくありません。
あるいは、
ストレス
+
軽度のうつ症状
+
ED
というように、テストステロン以外の要因が中心になっている場合もあります。
男性更年期の診療で重要なのは、
「この症状はテストステロンのせい」と最初から決めつけないこと
です。
逆に、すべてを「年齢」「疲れ」「ストレス」で片づけてしまうのも適切ではありません。
症状、生活習慣、睡眠、体組成、基礎疾患、採血結果などを組み合わせて評価することで、どこに治療のポイントがあるのかを考えていきます。
男性更年期の評価は「原因を探すこと」から始まる
男性更年期の診療では、テストステロン値を測定することは重要です。
しかし、それだけで診療が完結するわけではありません。
例えば、
-
肥満が強ければ体重管理
-
SASが疑われれば睡眠検査
-
糖尿病があれば血糖管理
-
甲状腺機能異常があればその治療
-
貧血があれば原因検索
など、背景にある問題に対応することで症状が改善する場合があります。
そのうえで、症状やテストステロン値を総合的にみながら、必要に応じてテストステロン補充療法(TRT)などを検討します。
つまり男性更年期診療では、
「テストステロンを測ること」ではなく、「なぜその症状が出ているのかを整理すること」
が治療の第一歩です。
どんな人がテストステロン検査を考えてよい?
男性更年期が気になる場合でも、全員が必ずテストステロン検査を受けなければならないわけではありません。
一方で、症状の組み合わせや背景によっては、テストステロンを測定することで原因を考える手がかりになることがあります。
特に重要なのは、
「なんとなく疲れる」という症状だけではなく、性機能の変化や体組成の変化などが重なっているかどうか
です。
性欲低下がある人
テストステロン低下と比較的関連が深い症状の一つが、性欲の低下です。
例えば、
-
性的な関心が以前より明らかに減った
-
性行為をしたいと思うことが少なくなった
-
パートナーとの性行為に積極的になれなくなった
といった変化がある場合には、一度テストステロンを確認する意味があります。
特に、
性欲低下+疲労感
性欲低下+朝立ちの減少
性欲低下+ED
のように複数の症状が重なっている場合は、より評価を検討しやすい状況です。
EDに加えて、ほかの男性更年期症状がある人
EDだけであれば、原因は血管、神経、心理、糖尿病、高血圧、喫煙などさまざまです。
そのため、EDがあるからといって必ずテストステロンを測定しなければならないわけではありません。
一方で、
-
ED
-
性欲低下
-
朝立ちの減少
-
疲労感
-
活力低下
などが同時にみられる場合には、テストステロン低下が関係している可能性も考えます。
特にED治療薬を使用しても十分な効果が得られない場合や、性欲低下が目立つ場合には、ホルモン評価が参考になることがあります。
朝立ちが明らかに減った人
朝の自然な勃起は、睡眠や自律神経、血管機能、ホルモン環境などの影響を受けます。
そのため、
「以前はよくあったのに、最近ほとんどなくなった」
という変化がある場合には、一つの参考になります。
もちろん、睡眠不足やSASなどでも朝立ちは減少するため、これだけで低テストステロンと判断することはできません。
ただし、性欲低下やEDを伴っている場合には、テストステロン測定を検討しやすくなります。
疲労感や活力低下が続いている人
「以前より明らかに疲れやすい」
「寝ても回復しない」
「仕事や運動への意欲が落ちた」
という状態が続いている場合にも、男性更年期が気になるかもしれません。
ただし、疲労感は非常に非特異的な症状です。
そのため、
-
睡眠不足
-
睡眠時無呼吸症候群
-
貧血
-
甲状腺機能異常
-
糖尿病
-
うつ状態
-
過労
など、ほかの原因も同時に確認することが重要です。
疲労感だけではなく、性欲低下や筋力低下、体脂肪増加なども伴っている場合には、テストステロン検査を考える価値があります。
筋力や筋肉量が落ちたと感じる人
テストステロンは筋肉の維持に関係しています。
そのため、
-
運動しているのに筋肉が落ちてきた
-
以前より力が入りにくい
-
体重は同じでも体型が変わった
-
筋肉が減って脂肪が増えた感じがする
といった場合にも、ほかの症状と合わせて評価することがあります。
ただし、運動不足、加齢、栄養不足、慢性疾患などでも筋肉量は低下します。
そのため、必要に応じて体重やBMIだけでなく、筋肉量や体脂肪率などの体組成も参考になります。
肥満やメタボリックシンドロームがある人
肥満、特に内臓脂肪型肥満は低テストステロンと関連します。
また、
-
肥満
-
高血圧
-
脂質異常症
-
糖尿病
-
メタボリックシンドローム
などを持つ男性では、性機能低下や低テストステロンがみられることがあります。
EAUやEndocrine Societyでも、肥満や2型糖尿病は男性性腺機能低下症と関連する重要な背景因子として扱われています。
そのため、肥満や糖代謝異常があり、さらに性欲低下やED、疲労感などがある場合には、テストステロン評価を検討する意義があります。
一方で、肥満ではSHBGが低下し、総テストステロンが低く見えることもあります。
そのため、数値の解釈は症状やほかの検査結果と合わせて行う必要があります。
睡眠時無呼吸症候群が疑われる人
睡眠時無呼吸症候群では、
-
日中の眠気
-
疲労感
-
集中力低下
-
ED
などが起こりやすく、男性更年期と症状が重なります。
さらに、肥満や睡眠障害を介してテストステロン低下を伴うこともあります。
そのため、
-
大きないびき
-
睡眠中の無呼吸
-
起床時の頭痛
-
強い日中の眠気
-
肥満
などがある場合には、テストステロンと同時にSASの評価も考えることが大切です。
40代以降で複数の症状が出てきた人
男性更年期は40代以降に相談が増えますが、年齢だけで検査の必要性を決めるものではありません。
ただし、
40代以降で、以前にはなかった性欲低下・ED・疲労・筋力低下などが複数出てきた
という場合には、一度ホルモンを含めて身体の状態を確認する選択肢があります。
「何歳になったら測る」というより、
年齢+症状+背景
で判断する方が自然です。
若い人でもテストステロン検査が必要なことはある
男性更年期という言葉から、若い男性には関係ないと思われるかもしれません。
しかし、低テストステロンは必ずしも加齢だけで起こるわけではありません。
例えば、
-
精巣の病気や外傷
-
下垂体・視床下部の病気
-
高プロラクチン血症
-
一部の薬剤
-
アナボリックステロイドや外因性テストステロンの使用
-
強い肥満
-
慢性疾患
などでも起こります。
そのため、若い男性でも明らかな性欲低下やED、二次性徴の問題、不妊などがある場合には、必要に応じてホルモン評価を検討します。
自覚症状がほとんどない人に、無差別に検査するわけではない
一方で、症状のない男性全員にテストステロンを測ることが推奨されているわけではありません。
Endocrine Societyは、一般男性に対するルーチンのスクリーニングを推奨していません。
基本的には、
男性性腺機能低下症を疑う症状や徴候がある場合に検査する
という考え方です。
つまり、
「健康診断のついでに、全員が毎年テストステロンを測る」
というものではありません。
一度測ればすべて分かるわけではない
テストステロン検査を受ける場合にもう一つ重要なのが、1回の測定結果だけですべてを判断しないことです。
テストステロンには日内変動があり、睡眠、食事、体調、急性疾患などの影響も受けます。
そのため、低値だった場合には測定条件を確認し、必要に応じて別の日に再検査します。
海外ガイドラインでは、男性性腺機能低下症が疑われる場合、早朝の総テストステロンを測定し、低値であれば再度確認することが基本です。
テストステロン検査は、
「1回測って正常か異常かを決める検査」
というより、
症状の原因を考えるための一つの材料
として捉えることが大切です。
「気になるから一度調べてみたい」という相談でもよい
一方で、すでに強い症状がなければ検査をしてはいけない、ということでもありません。
例えば、
「最近性欲が落ちてきた気がする」
「疲れやすくなったけれど、年齢のせいなのか知りたい」
「EDもあるので、一度男性ホルモンを確認したい」
という段階で相談することもできます。
特に男性更年期では、本人が症状に慣れてしまい、
「こんなものだろう」
と思っていることもあります。
テストステロン検査だけですべての原因が分かるわけではありませんが、自分の身体の状態を整理するきっかけとして検査を受けることには意味があります。
大切なのは、検査結果だけで治療を決めるのではなく、症状や生活背景、ほかの検査結果も含めて総合的に判断することです。
男性更年期ではどんな検査をする?
男性更年期が疑われる場合、中心になるのは血液中のテストステロン測定です。
ただし、実際の診療ではテストステロンだけを測ればよいわけではありません。
男性更年期にみられる症状は非常に幅広く、睡眠障害、糖尿病、甲状腺疾患、貧血、肥満、薬剤などでも似た症状が起こります。
そのため、男性更年期の検査では、
-
テストステロンの状態を確認する
-
テストステロンが低い場合に原因を考える
-
男性更年期に似たほかの病気がないか確認する
-
TRTを行う場合に安全に治療できるか確認する
という複数の目的があります。
まずは症状や生活背景を確認する
検査の前に重要なのが、どのような症状があるのかを整理することです。
例えば、
-
性欲は以前と比べて低下しているか
-
EDはあるか
-
朝の自然な勃起は減っているか
-
疲労感や活力低下はあるか
-
睡眠は十分に取れているか
-
いびきや無呼吸を指摘されていないか
-
体重が増えていないか
-
筋力や筋肉量の低下を感じるか
-
気分の落ち込みはないか
などを確認します。
さらに、
-
糖尿病
-
高血圧
-
脂質異常症
-
肝疾患
-
腎疾患
-
精巣疾患
-
下垂体疾患
-
使用している薬剤
-
過去のホルモン製剤やアナボリックステロイド使用歴
なども重要です。
男性更年期では、血液検査の数値だけではなく、こうした背景と検査結果を組み合わせて判断します。
テストステロンは朝に測定する
テストステロン測定で特に重要なのが、採血する時間帯です。
テストステロンには日内変動があり、一般的には朝に高く、夜に低くなる傾向があります。
Endocrine Societyは、男性性腺機能低下症を診断する際に早朝・空腹時の総テストステロン測定を推奨しており、低値だった場合には別の日に再測定して確認することを推奨しています。
患者向け情報でも、テストステロンは午前7〜10時頃に測定することが案内されています。
そのため、男性更年期の評価を目的としてテストステロンを測る場合には、可能であれば午前中、できれば早い時間帯での採血が望まれます。
空腹時の採血が推奨される
海外ガイドラインでは、テストステロン測定は空腹時に行うことが推奨されています。
食事後には一時的にテストステロン値が変動することがあるためです。
そのため、
早朝
+
空腹時
という条件をそろえて測定することで、より評価しやすくなります。
ただし、実際の診療では勤務時間や生活リズムによって、理想的な時間帯に受診できないこともあります。
その場合には、採血した時間や食事状況を確認したうえで結果を解釈し、必要に応じて条件を整えて再検査します。
総テストステロン(TT)
海外で男性性腺機能低下症を評価するときの基本になるのが、**総テストステロン(Total Testosterone:TT)**です。
血液中のテストステロンには、SHBGやアルブミンなどのタンパク質に結合しているものと、結合していないものがあります。
総テストステロンは、これらを合わせた血液中のテストステロン全体を表します。
Endocrine Societyでは、症状があり、適切に測定した総テストステロンが一貫して低値であることを男性性腺機能低下症診断の基本としています。
ただし、基準値は測定方法や検査機関によって多少異なります。
そのため、単純に一つの数値だけで正常・異常を決めるのではなく、使用した検査法や症状と合わせて解釈する必要があります。
遊離テストステロン(FT)
日本では、LOH症候群の評価に**遊離テストステロン(Free Testosterone:FT)**が比較的よく用いられてきました。
遊離テストステロンとは、SHBGなどに結合していないテストステロンです。
従来の日本のLOH診療では、FTを用いた評価が重視され、旧来の診療アルゴリズムではFT 8.5 pg/mL未満を低値、8.5〜11.8 pg/mLを境界域として扱う考え方が示されていました。
一方、欧米では総テストステロンを基本に評価し、総テストステロンだけでは判断しにくい場合に遊離テストステロンを追加する考え方が一般的です。
このように、日本と海外では歴史的にテストステロン評価の方法に違いがあります。
そのため、インターネット上で見かけた海外の基準値と、日本の遊離テストステロンの数値を単純に比較することはできません。
SHBGとは?
SHBGは、**Sex Hormone-Binding Globulin(性ホルモン結合グロブリン)**の略で、血液中でテストステロンなどと結合するタンパク質です。
SHBGは、
-
肥満
-
加齢
-
甲状腺機能
-
肝機能
-
一部の薬剤
などによって変化します。
特に肥満ではSHBGが低下しやすく、総テストステロンも低く見えることがあります。
そのため海外では、総テストステロンが境界域の場合や、SHBGに影響する状態がある場合には、SHBGを確認したうえで遊離テストステロンを評価することがあります。
低値だったら再検査することがある
テストステロン値は、日によっても変動します。
睡眠不足、食事、急性疾患、体調不良などでも一時的に低くなる可能性があります。
そのため海外の男性性腺機能低下症診療では、1回低かっただけでは診断せず、別の日の早朝採血で低値を確認することが基本です。
2026年のEndocrine Societyの声明でも、診断には少なくとも2回の早朝・空腹時テストステロン測定を用いることが改めて強調されています。
特に、
-
採血時間が遅かった
-
食後だった
-
寝不足だった
-
発熱や体調不良があった
という場合には、再検査の意義が大きくなります。
LH・FSHで「なぜ低いのか」を考える
テストステロンが明らかに低い場合には、次に原因を考えます。
そこで重要になるのが、
LH(黄体形成ホルモン)
FSH(卵胞刺激ホルモン)
です。
Endocrine Societyは、男性性腺機能低下症が確認された場合にLH・FSHを測定し、原発性性腺機能低下症と続発性性腺機能低下症を区別することを推奨しています。
例えば、
テストステロン低値+LH高値
であれば、精巣側の機能低下を示唆します。
一方、
テストステロン低値+LHが低値または不適切に正常
であれば、視床下部や下垂体側の問題を考えます。
このように、LH・FSHを測定することで「テストステロンが低い」という結果から、さらに原因を掘り下げることができます。
プロラクチンを確認することもある
続発性性腺機能低下症が疑われる場合には、**プロラクチン(PRL)**を確認することがあります。
プロラクチンが高い状態では、視床下部・下垂体系が抑制され、性欲低下や低テストステロンを引き起こす場合があります。
Endocrine Societyも、中枢性の性腺機能低下症を評価する際に、テストステロン、LH、FSHとともにプロラクチンの評価を推奨しています。
明らかな異常がある場合には、下垂体疾患などを考えて追加検査が必要になることもあります。
貧血や多血症を確認するための血算
血算では、
-
ヘモグロビン
-
ヘマトクリット
-
赤血球数
などを確認します。
低テストステロンでは貧血を伴うことがあります。
一方、TRTを開始すると赤血球産生が促進され、ヘマトクリットが上昇することがあります。
そのためTRTを検討する場合には、治療前のヘモグロビン・ヘマトクリットを確認しておくことが重要です。
Endocrine Societyも、高ヘマトクリットをTRT開始前に注意すべき状態として挙げています。
PSAなど前立腺の評価
TRTを検討する場合には、年齢やリスクに応じて**PSA(前立腺特異抗原)**などを確認します。
これは、
「テストステロン治療をすると必ず前立腺がんになる」
という意味ではありません。
一方で、未診断の前立腺がんが存在する可能性などを考え、治療前にリスクを評価しておく必要があります。
Endocrine Societyは、TRTを検討する一定年齢以上の男性などでは、治療前に前立腺がんリスクを評価し、治療開始後もモニタリングすることを推奨しています。
PSAとTRT、前立腺がんリスクについては別の記事で詳しく解説します。
血糖やHbA1c
肥満や2型糖尿病と低テストステロンには関連があります。
そのため、
-
空腹時血糖
-
HbA1c
などを確認することで、糖代謝異常がないかを評価できます。
特に肥満、腹囲増加、家族歴などがある場合には重要です。
肝機能・腎機能
疲労感や倦怠感の原因検索として、
-
AST
-
ALT
-
γ-GTP
-
クレアチニン
-
eGFR
などを確認する場合があります。
肝疾患や腎疾患そのものが全身倦怠感の原因になるほか、慢性疾患はテストステロン値にも影響する可能性があります。
日本のLOH診療の手引きでも、LOHに特異的な一般検査はないものの、重篤な内科疾患の除外や治療前・治療中評価を目的に一般臨床検査を行う考え方が示されています。
甲状腺機能
疲労感、体重変化、気分変化、性欲低下などがある場合には、
-
TSH
-
FT4
などの甲状腺機能を確認することがあります。
甲状腺機能低下症では男性更年期に非常によく似た症状が現れるためです。
特に疲労感や気分症状が中心の場合には、テストステロンだけに原因を求めないことが重要です。
必要に応じてその他の検査も行う
症状や既往歴によっては、
-
脂質
-
鉄・フェリチン
-
ビタミンD
-
亜鉛
-
その他の下垂体ホルモン
などを追加して評価する場合があります。
ただし、これらを男性更年期の人全員に一律で測定しなければならないというわけではありません。
症状や生活背景に合わせて、必要な検査を選択することが大切です。
問診票だけでは診断できない
男性更年期では、AMSスコア(Aging Males' Symptoms scale)などの質問票が使われることがあります。
自分の症状を整理したり、治療前後の変化を追ったりするには便利です。
一方で、質問票で点数が高かったからといって、
「LOH症候群である」
「テストステロンが低い」
「TRTが必要である」
と判断できるわけではありません。
質問票はあくまで症状評価の一つとして使用し、血液検査や診察結果と合わせて判断します。
男性更年期の検査は「テストステロンだけ」ではない
男性更年期の評価では、テストステロン測定が中心になります。
しかし、本当に重要なのは、
テストステロンが低いかどうかだけを見ることではありません。
例えば、
症状
+
総テストステロン
+
必要に応じてLH・FSH・PRL
+
血算
+
糖代謝
+
甲状腺・肝腎機能など
+
睡眠や体組成の評価
を組み合わせることで、症状の背景を整理できます。
さらにTRTを検討する場合には、PSAやヘマトクリット、妊孕性、睡眠時無呼吸症候群など、安全に治療できるかどうかの確認も必要です。
つまり男性更年期の検査は、
「テストステロンが低いかを調べる検査」だけではなく、「なぜ不調が起きているのか、治療するなら何に注意すべきなのかを調べる評価」
と考えると分かりやすいでしょう。
テストステロンが低ければ男性更年期?
男性更年期の検査でテストステロンを測定すると、
「いくつ以下なら男性更年期ですか?」
「基準値を下回っていたら治療した方がいいですか?」
と聞かれることがあります。
しかし、男性更年期や男性性腺機能低下症は、テストステロンの数値だけで単純に決められるものではありません。
ここは、日本のLOH症候群と海外の男性性腺機能低下症で考え方に違いがある部分でもあります。
海外では「症状+一貫した低テストステロン」が基本
Endocrine Societyでは、男性性腺機能低下症の診断には、
テストステロン欠乏を示唆する症状・徴候があること
に加えて、
血清テストステロン値が明確かつ一貫して低いこと
が必要とされています。
また、低値だった場合には、別の日に早朝・空腹時の総テストステロンを再測定して確認することが推奨されています。
2026年のEndocrine Societyの声明でも、少なくとも2回の早朝・空腹時採血を行い、症状と合わせて診断することが改めて強調されています。一般的な臨床上の目安として300 ng/dL前後が使われることがありますが、測定法や検査施設による違いもあるため、一つの数値だけで診断するわけではありません。
日本のLOH診療では考え方が少し異なる
一方、日本の「LOH症候群 診療の手引き」では、より特徴的な考え方が示されています。
診断基準としては、
-
午前中の総テストステロン 250 ng/dL未満
-
遊離テストステロン 7.5 pg/mL未満
などが示されています。
しかし、TRTの治療適応を判断する際には、これらのテストステロン値を必須条件とはしていません。
日本の手引きでは、40歳以上でLOHに関連する症状・徴候がある男性について、症状を中心に治療適応を検討する考え方が示されています。
これは海外ガイドラインと比べると、かなり特徴的な点です。
「正常値なら男性更年期ではない」とも言い切れない
日本のLOH診療では、テストステロン値が基準値以上であっても、LOHに関連する症状が強い場合には、男性更年期として評価する余地があります。
ただし、ここは慎重に考える必要があります。
日本のLOH診療の手引きでも、テストステロンが基準値以上の男性だけを対象としてTRTの有効性や安全性を十分に検証した研究は乏しく、特に日本人でのエビデンスは十分ではないとされています。
つまり、
「テストステロンが正常でも症状があれば誰でもTRTを行ってよい」
という意味ではありません。
症状の原因が睡眠障害、肥満、うつ状態、甲状腺疾患、貧血などにないかを確認し、治療による利益とリスクを考えたうえで個別に判断する必要があります。
逆に、テストステロンが低くても症状がなければ?
反対に、血液検査でテストステロンが低かったとしても、自覚症状や関連する徴候がほとんどない場合があります。
海外では、このような無症候性の低テストステロンだけを理由に男性性腺機能低下症と診断したり、TRTを開始したりすることは基本的に推奨されていません。
Endocrine Societyは、一般男性を対象としてテストステロンを一律にスクリーニングすることも推奨しておらず、症状・徴候がある男性を中心に評価することを基本としています。
つまり、
低い数値だけを治療するのではなく、その数値が本人の症状や健康状態とどう関係しているのか
を考える必要があります。
1回だけ低かった場合はどうする?
テストステロンは一定の値ではありません。
日内変動があり、一般的には朝に高く、夜に低くなります。
さらに、
-
睡眠不足
-
食事
-
強い運動
-
栄養状態
-
急性疾患
-
一部の薬剤
などによって、一時的に低下することがあります。
そのため、
一度低かった=慢性的なテストステロン欠乏
とは限りません。
海外では、症状があり最初の検査で低値だった場合、条件を整えて再測定することが基本です。
特に午後や夜間に採血した結果が低かった場合は、朝の測定で再評価する方が適切です。
「300 ng/dL」「250 ng/dL」など、なぜ数字が違う?
インターネットで調べると、
「300 ng/dL未満」
「250 ng/dL未満」
など、異なる数字が出てくることがあります。
これは間違いというより、
-
日本と海外で診療の考え方が違う
-
ガイドラインが異なる
-
測定方法が異なる
-
総テストステロンと遊離テストステロンを混同している
-
研究ごとに基準が異なる
といった理由があります。
例えば、日本のLOH診療の手引きでは総テストステロン250 ng/dL未満が診断基準の一つとして示されています。
一方、2026年のEndocrine Societyの声明では、米国臨床でよく用いられる目安として総テストステロン約300 ng/dLが紹介されています。
したがって、
「249なら病気で、251なら正常」
というような境界線として捉えるべきではありません。
数値はあくまで診断材料の一つです。
総テストステロンが低くても、本当に男性ホルモン不足とは限らない
さらに注意したいのが、SHBGの影響です。
血液中のテストステロンの多くはSHBGやアルブミンと結合しています。
特に肥満ではSHBGが低下することがあり、その結果、総テストステロンが低く測定される場合があります。
一方、加齢などではSHBGが高くなることもあります。
そのため総テストステロンが境界域の場合には、SHBGや遊離テストステロンなどを含めて評価することで、より正確にホルモン状態を把握できる場合があります。
この点でも、
「総テストステロンが低い=必ず男性ホルモン不足」
とは単純に言えません。
数値よりも症状を重視すればよい?
では反対に、
「日本では症状重視なら、テストステロンの数値はあまり意味がないのでは?」
と思うかもしれません。
そうではありません。
テストステロン値は、
-
男性性腺機能低下症の有無を考える
-
原因検索につなげる
-
TRTを検討する材料にする
-
治療後の状態を確認する
うえで非常に重要です。
日本のLOH診療で数値をTRT適応の絶対条件としていないからといって、測定しなくてもよいという意味ではありません。
むしろ、症状がテストステロン低下と本当に関係している可能性があるのかを考えるために、適切な条件で測定しておくことには大きな意味があります。
男性更年期は「症状と数値を一緒に考える」
男性更年期診療で重要なのは、
症状だけを見ることでも、数値だけを見ることでもありません。
例えば、
症状が強い+テストステロンが明らかに低い
のであれば、テストステロン低下が症状に関係している可能性は高くなります。
一方、
症状は強い+テストステロンは十分保たれている
のであれば、睡眠、精神状態、甲状腺、貧血、糖代謝など、ほかの原因をより慎重に考える必要があります。
また、
テストステロンは低い+症状がほとんどない
のであれば、その数値だけを目的として治療する必要性は低い場合があります。
つまり男性更年期は、
症状
+
適切に測定したテストステロン値
+
生活習慣や基礎疾患
+
ほかの原因の有無
を組み合わせて評価することが重要です。
日本のLOH診療と海外の男性性腺機能低下症では診断やTRT適応の考え方に違いがありますが、共通しているのは、「一つの数値だけで治療を決めない」ことです。
男性更年期の治療
男性更年期の治療というと、テストステロン補充療法(TRT)をイメージする方が多いかもしれません。
しかし、男性更年期の治療は**「テストステロンが低いから補充する」だけではありません。**
症状の原因には、
-
肥満
-
睡眠不足
-
睡眠時無呼吸症候群
-
糖尿病
-
運動不足
-
強いストレス
-
薬剤
-
精巣や下垂体の病気
などが関係することがあります。
そのため、治療ではまず、
何が症状やテストステロン低下に関係しているのか
を整理することが重要です。
そのうえで、
-
生活習慣の改善
-
肥満や睡眠障害などへの治療
-
EDなど個別症状への治療
-
必要に応じたテストステロン補充療法
を組み合わせていきます。
まずは原因になっているものを整える
特に重要なのが、改善可能な原因への介入です。
例えば肥満がある場合には、減量によってテストステロン値が改善することがあります。
睡眠不足や睡眠時無呼吸症候群がある場合には、睡眠の改善によって疲労感や活力低下が改善する可能性があります。
糖尿病や代謝異常がある場合には、血糖管理や体重管理も重要です。
つまり男性更年期の治療では、
「テストステロンを上げること」そのものを目的にするのではなく、症状や健康状態全体を改善すること
が大切です。
肥満がある場合は減量が重要
肥満は、低テストステロンと深く関係しています。
特に内臓脂肪が多い男性では、総テストステロンが低くなることがあります。
Endocrine Societyは、肥満を背景とした低テストステロンでは、明らかな器質的原因がない場合、減量を第一選択として考えることを示しています。
減量によって、
-
テストステロン値の改善
-
血糖や脂質の改善
-
睡眠時無呼吸症候群の改善
-
EDの改善
-
体力や活動性の改善
などが期待できる場合があります。
男性更年期診療では、体重だけでなく、腹囲、筋肉量、体脂肪率なども確認しながら治療を考えるとよいでしょう。
運動も重要な治療の一つ
運動は、男性更年期の治療でも重要です。
特に、
-
筋力トレーニング
-
有酸素運動
-
日常の活動量を増やすこと
は、体脂肪の減少や筋肉量の維持に役立ちます。
運動によってテストステロンが必ず大きく上昇するわけではありませんが、体組成、インスリン感受性、睡眠、気分、心血管リスクなど多方面にメリットがあります。
男性更年期の治療では、TRTを行う場合でも、運動を併用することが重要です。
睡眠を整える
睡眠不足や睡眠の質の低下は、
-
疲労感
-
集中力低下
-
性欲低下
-
活力低下
につながります。
また、睡眠不足はテストステロン分泌にも影響する可能性があります。
そのため、
-
睡眠時間を確保する
-
就寝・起床時間を整える
-
夜間の飲酒を控える
-
夜更かしを減らす
など、基本的な睡眠習慣を見直すことも重要です。
睡眠時無呼吸症候群があれば治療する
いびきや無呼吸、強い日中の眠気などがある場合には、睡眠時無呼吸症候群の評価が必要です。
SASがある場合には、CPAPやマウスピース、減量などの治療を行うことで、
-
日中の眠気
-
疲労感
-
集中力低下
-
ED
が改善することがあります。
また、未治療の重症SASがある場合には、TRT開始に慎重になる必要があります。
そのため、TRTを検討する前に睡眠の状態を確認することはとても重要です。
EDにはED治療を組み合わせる
男性更年期の人でも、EDの原因がすべて低テストステロンとは限りません。
そのためEDがある場合には、必要に応じて、
-
シルデナフィル
-
タダラフィル
-
バルデナフィル
などのPDE5阻害薬を使用します。
テストステロンが低い男性ではTRTによって性欲や勃起機能が改善することがありますが、ED治療薬の方が直接的に効果を期待できるケースもあります。
特に、
性欲は保たれているが勃起しにくい
という場合には、血管性EDなどを考え、ED治療薬が中心になることがあります。
一方、
性欲低下+ED+低テストステロン
という場合には、TRTとED治療を組み合わせることもあります。
精神症状が強い場合は別の評価も必要
気分の落ち込みや意欲低下が強い場合、すべてを男性更年期として治療するのは適切ではありません。
うつ病、不安障害、強いストレスなどが関係していることもあります。
その場合には、必要に応じて精神科・心療内科的な評価を行うことも重要です。
TRTによって気分症状が改善する人もいますが、
「抑うつ症状=テストステロン不足」
とは限りません。
テストステロン補充療法(TRT)
症状があり、テストステロン低下との関連が考えられる場合には、**テストステロン補充療法(TRT)**を検討します。
TRTでは、外からテストステロンを補うことで、体内の男性ホルモン環境を改善します。
期待できる効果としては、
-
性欲の改善
-
EDの改善
-
朝の自然な勃起の改善
-
筋肉量の増加
-
脂肪量の減少
-
骨密度の改善
-
貧血の改善
-
一部の活力・気分症状の改善
などがあります。
ただし、すべての症状が必ず改善するわけではありません。
特に疲労感や気分症状は原因が多いため、TRTだけでは改善しないこともあります。
TRTは誰にでも行う治療ではない
TRTには注意すべき点もあります。
特に、
-
妊娠を希望している
-
多血症がある
-
前立腺がんが疑われる
-
重度の未治療睡眠時無呼吸症候群がある
-
重い心血管疾患の状態によっては慎重な判断が必要
などの場合には、開始前に十分な評価が必要です。
また、外からテストステロンを投与すると、脳からのLH・FSH分泌が抑制され、精巣内のテストステロン産生や精子形成が低下することがあります。
そのため、妊活中や将来の妊娠希望がある男性では特に注意が必要です。
TRTは開始後のモニタリングが重要
TRTは、一度始めればそのまま続けてよい治療ではありません。
治療開始後は、
-
症状が改善しているか
-
テストステロン値が適切か
-
ヘマトクリットが上がりすぎていないか
-
PSAに変化がないか
-
副作用が出ていないか
などを定期的に確認します。
症状が改善しない場合には、
本当にテストステロン低下が症状の原因だったのか
をもう一度考える必要があります。
TRTは数値を上げることが目的ではなく、症状や生活の質を改善するために行う治療です。
男性更年期の治療は「組み合わせ」が重要
実際には、
TRTだけ
あるいは
生活習慣改善だけ
で治療が完結するとは限りません。
例えば、
肥満+SAS+低テストステロン+ED
がある男性では、
-
減量
-
SAS治療
-
ED治療薬
-
必要に応じてTRT
を組み合わせることがあります。
男性更年期の治療で重要なのは、
一つの原因、一つの治療に決めつけないこと
です。
症状、テストステロン値、体組成、睡眠、生活習慣、基礎疾患、妊娠希望などを確認しながら、その人に合った治療を組み合わせていきます。
テストステロン補充療法(TRT)とは?
テストステロン補充療法は、**Testosterone Replacement Therapy(TRT)**と呼ばれ、体内で不足しているテストステロンを外から補う治療です。
男性更年期や男性性腺機能低下症の治療として用いられますが、誰にでも行う治療ではありません。
TRTを検討する際には、
-
どのような症状があるか
-
テストステロンが本当に低いか
-
ほかに症状の原因がないか
-
妊娠希望があるか
-
多血症や前立腺疾患などのリスクがないか
などを確認したうえで、治療による利益とリスクを考えます。
TRTでは何をする?
TRTにはいくつか方法があります。
代表的には、
-
注射
-
塗り薬・ゲル
-
貼付剤
などがあります。
国によって使用できる製剤は異なりますが、日本では注射製剤が用いられることが多くあります。
注射製剤では、一定期間ごとにテストステロンを筋肉内へ投与し、体内のテストステロンを補充します。
一方、海外ではテストステロンゲルなど、毎日皮膚に塗布する方法も広く使用されています。
それぞれ、
-
血中濃度の変化
-
投与頻度
-
通院頻度
-
費用
-
使いやすさ
などが異なります。
TRTで期待できる効果
TRTで期待できる効果は、症状やテストステロン低下の程度によって異なります。
代表的には、
-
性欲の改善
-
朝の自然な勃起の改善
-
EDの一部改善
-
筋肉量の増加
-
脂肪量の減少
-
骨密度の改善
-
貧血の改善
-
活力や気分症状の改善
などがあります。
ただし、すべての症状に同じように効くわけではありません。
特に性欲や一部の性機能症状は改善を感じやすい一方、疲労感や気分症状は原因が多いため、TRTだけで改善しないこともあります。
効果はすぐに出る?
TRTの効果は、症状によって現れる時期が異なります。
例えば、性欲や活力などは比較的早期に変化を感じることがあります。
一方で、
-
筋肉量
-
体脂肪
-
骨密度
などの体組成や組織の変化には、より長い期間が必要です。
そのため、TRTを開始して数日で効果を判断するのではなく、一定期間フォローしながら評価します。
ただし、適切な期間治療しても症状がほとんど改善しない場合には、
その症状の主な原因がテストステロン低下ではなかった可能性
も考える必要があります。
EDに対してはTRTだけで十分とは限らない
低テストステロンがある男性では、TRTによってEDが改善することがあります。
ただし、EDには、
-
血管障害
-
糖尿病
-
高血圧
-
喫煙
-
神経障害
-
心理的要因
など、さまざまな原因があります。
そのため、TRTだけでは十分な改善が得られない場合もあります。
特に血管性EDが強い場合には、PDE5阻害薬を併用することがあります。
逆に、性欲低下が強く、テストステロンも低い場合には、TRTの方が症状改善に重要になることがあります。
TRTで筋肉は増える?
テストステロンは筋肉量の維持に関係しています。
そのため、低テストステロンの男性にTRTを行うと、除脂肪体重や筋肉量が増加することがあります。
ただし、
TRTをすれば運動をしなくても理想的な身体になる
というわけではありません。
筋肉量や筋力の改善には、
-
筋力トレーニング
-
十分なタンパク質摂取
-
適切なエネルギー摂取
-
睡眠
なども重要です。
TRTは、生活習慣改善の代わりになる治療ではなく、必要な人に対してホルモン環境を整える治療です。
TRTと体脂肪
低テストステロンの男性では、TRTによって脂肪量が減少することがあります。
ただし、これも「TRTだけで痩せる」という意味ではありません。
肥満を伴う男性更年期では、
-
食事
-
運動
-
減量
-
睡眠改善
などを組み合わせることが重要です。
特に肥満がテストステロン低下の背景になっている場合には、体重減少そのものがテストステロン改善につながることがあります。
TRTと妊活は要注意
TRTを考えるうえで非常に重要なのが、妊孕性への影響です。
外からテストステロンを投与すると、脳は
「体内に十分なテストステロンがある」
と判断します。
その結果、下垂体から分泌されるLHやFSHが低下します。
すると、精巣内でのテストステロン産生や精子形成が抑制されることがあります。
つまり、
TRTによって精子数が大きく減少することがある
ということです。
そのため、現在妊活中の男性や、近い将来子どもを希望している男性では、TRT開始前に十分な検討が必要です。
これはTRTを始める前に必ず確認しておきたい重要なポイントです。
TRTと多血症
テストステロンには赤血球産生を促進する作用があります。
そのためTRTを行うと、
-
ヘモグロビン
-
ヘマトクリット
が上昇することがあります。
ある程度の上昇は治療に伴う変化ですが、上がりすぎると多血症となり、治療の調整が必要になる場合があります。
そのためTRT中は、定期的に血算を確認します。
TRTと前立腺
テストステロンと前立腺の関係を心配する方も多くいます。
現在では、
適切に診断された男性性腺機能低下症に対するTRTが、前立腺がんを直接発生させると単純に考えられているわけではありません。
一方で、未診断の前立腺がんなどがないかを確認することは重要です。
そのため、年齢やリスクに応じて、
-
PSA
-
前立腺症状
-
必要に応じた専門的評価
を行います。
TRTと前立腺がんの関係については、別の記事で詳しく解説します。
TRTと心血管リスク
以前から、
「テストステロン治療で心筋梗塞や脳卒中が増えるのではないか」
という議論がありました。
近年では大規模臨床試験も行われており、適切に選択された男性に対するTRTの心血管安全性について、以前より多くのデータが蓄積されています。
ただし、
-
最近心筋梗塞を起こした
-
最近脳卒中を起こした
-
重い心不全がある
などの場合には、開始時期や適応を慎重に考える必要があります。
TRTは「健康な男性が若返るために使う治療」ではなく、症状やテストステロン低下を評価したうえで行う医療です。
TRTと睡眠時無呼吸症候群
重症の未治療閉塞性睡眠時無呼吸症候群がある場合には、TRT開始には注意が必要です。
そのため、
-
強いいびき
-
睡眠中の無呼吸
-
日中の強い眠気
-
肥満
などがある場合には、治療前にSASの評価を行うことがあります。
男性更年期とSASは症状が似ているため、両方を評価することが重要です。
TRT開始後は何を確認する?
TRT開始後は、定期的なフォローが必要です。
主に確認するのは、
-
症状の変化
-
テストステロン値
-
ヘモグロビン・ヘマトクリット
-
PSA
-
副作用
-
体重・体組成
-
血圧
-
睡眠やEDなどの関連症状
です。
重要なのは、
テストステロン値が上がったかどうかだけではなく、本人の症状が改善しているか
です。
数値が十分上昇していても症状が改善していない場合には、他の原因を再評価する必要があります。
TRTは「ずっと続けなければならない」?
TRTを開始したからといって、必ず一生続けなければならないわけではありません。
原因や症状、治療反応によって考え方は異なります。
例えば肥満や睡眠不足などが大きく関係していた場合には、生活習慣改善によってテストステロン環境が改善する可能性があります。
一方、精巣そのものの機能低下などが原因の場合には、長期的な補充が必要になることもあります。
治療を続けるかどうかは、
症状
効果
副作用
テストステロン値
本人の希望
などを確認しながら判断します。
TRTは「数値を上げる治療」ではなく「症状を改善するための治療」
男性更年期の治療では、
「テストステロンを高くすればするほどよい」
という考え方ではありません。
目標は、
テストステロンを生理的な範囲に保ちながら、症状や生活の質を改善すること
です。
そのため、
-
効果があるか
-
副作用がないか
-
本当に継続する意味があるか
を定期的に確認することが重要です。
TRTは、適切な評価とモニタリングを行えば、男性更年期・男性性腺機能低下症に対する重要な治療選択肢の一つです。
一方で、肥満、睡眠、ED、糖代謝など、同時に治療すべき問題がある場合には、それらへの介入も組み合わせていくことが大切です。
男性更年期が気になる場合は、一度評価してみることが大切
男性更年期の症状は、はっきりした形で現れるとは限りません。
「なんとなく疲れやすい」
「以前より性欲が落ちた」
「仕事に集中しにくくなった」
「EDが気になるようになった」
といった、日常の小さな変化から始まることもあります。
一方で、こうした症状は男性更年期だけに起こるものではありません。
睡眠不足、肥満、睡眠時無呼吸症候群、糖尿病、甲状腺疾患、貧血、ストレス、うつ状態などでも似た症状がみられます。
そのため、男性更年期が気になる場合には、
「自分は男性更年期なのか」を自己判断するというより、症状の原因を一度整理してみる
という考え方が大切です。
強い症状がなくても相談はできる
男性更年期というと、
「かなり症状がひどくなってから受診するもの」
と思われるかもしれません。
しかし、必ずしもそうではありません。
例えば、
-
最近、性欲が落ちてきた
-
朝立ちが減った
-
EDが気になるようになった
-
疲れやすくなった
-
筋力や体型の変化が気になる
-
テストステロンがどのくらいあるのか知りたい
といった段階でも、評価を受けることはできます。
特に症状が複数重なっている場合には、テストステロンを含めて一度確認してみることで、今後の方針を考えやすくなります。
検査を受けたからといって、必ずTRTをするわけではない
男性更年期の検査を受けると、
「テストステロンが低ければ、そのまま注射を始めるのでは?」
と不安に感じる方もいるかもしれません。
しかし、検査の目的はTRTを始めることそのものではありません。
まずは、
-
症状の内容
-
テストステロン値
-
体組成
-
睡眠
-
糖代謝
-
甲状腺機能
-
貧血
-
基礎疾患
などを確認し、どこに原因がありそうかを整理します。
例えば、
肥満や睡眠不足の影響が大きい
のであれば、まず生活習慣改善を優先することがあります。
SASが疑われる
のであれば、睡眠評価を優先することがあります。
EDが中心
であれば、ED治療薬が適している場合もあります。
そのうえで、テストステロン低下との関連が強く、TRTによる利益が期待できる場合に治療を検討します。
「正常範囲だったから終わり」とも限らない
反対に、テストステロン値が基準範囲内だった場合でも、
「異常なしなので何もしなくてよい」
と単純に終わるとは限りません。
男性更年期に似た症状には、さまざまな原因があります。
例えば、
-
睡眠時無呼吸症候群
-
甲状腺機能異常
-
貧血
-
糖尿病
-
強いストレス
-
うつ状態
-
運動不足
-
肥満
などが隠れていることもあります。
そのため、テストステロンが正常だった場合も、
では何が症状の原因になっているのか
を考えることが重要です。
当院では自由診療として男性更年期を幅広く評価
当院では、男性更年期・LOH症候群に関する診療を自由診療で行っています。
そのため、単に「保険診療上の病名に当てはまるかどうか」だけではなく、
-
性欲低下
-
ED
-
疲労感
-
活力低下
-
睡眠
-
体組成
-
肥満
-
糖代謝
-
加齢に伴う変化
などを含めて、幅広く評価します。
必要に応じてテストステロンを含む血液検査を行い、症状や生活背景と合わせて治療方針を考えます。
治療についても、
-
生活習慣改善
-
減量
-
ED治療
-
睡眠の評価・治療
-
テストステロン補充療法
などから、その方に合った方法を検討します。
テストステロン値を知ることは、自分の状態を見直すきっかけになる
男性更年期の検査は、単に「異常があるかないか」を決めるためだけのものではありません。
テストステロン値や体組成、血糖、睡眠などを確認することで、
自分の現在の身体の状態を見直すきっかけ
になります。
症状が軽いうちに生活習慣の改善を始められることもありますし、逆に、これまで「年齢のせい」と思っていた症状に治療可能な原因が見つかることもあります。
男性更年期が少しでも気になる場合には、
「治療を始めるかどうか」よりも、「まず今の状態を知る」
というところから考えてみるとよいでしょう。
まとめ
男性更年期は、単に「年齢を重ねたから起こる不調」ではありません。
男性ホルモンであるテストステロンの変化に加えて、
-
肥満
-
睡眠不足
-
睡眠時無呼吸症候群
-
糖尿病やメタボリックシンドローム
-
運動不足
-
ストレス
-
一部の薬剤
-
精巣や下垂体の病気
など、さまざまな要因が関係することがあります。
また、男性更年期では、
-
性欲低下
-
ED
-
朝立ちの減少
-
疲労感
-
活力低下
-
集中力低下
-
気分の変化
-
筋力低下
-
体脂肪の増加
-
睡眠の問題
など、幅広い症状がみられることがあります。
一方で、これらの症状は男性更年期だけに特有のものではありません。
そのため、
「疲れやすいから男性更年期」
あるいは、
「テストステロンが低かったから男性更年期」
と一つの症状や数値だけで判断することはできません。
男性更年期を考えるうえで重要なのは、
症状
+
適切な条件で測定したテストステロン値
+
睡眠や生活習慣
+
体組成
+
基礎疾患やほかの原因
を総合的に評価することです。
治療についても、テストステロン補充療法(TRT)だけが選択肢ではありません。
肥満があれば減量、睡眠時無呼吸症候群があればその治療、EDがあればED治療、生活習慣に問題があればその改善を行い、そのうえで必要に応じてTRTを検討します。
また、TRTには性欲や体組成などの改善が期待できる一方で、多血症や妊孕性への影響など注意すべき点もあります。そのため、治療開始前の評価と治療後の定期的なフォローが重要です。
男性更年期の症状は、
「もう年齢だから仕方がない」
と見過ごされてしまうことがあります。
しかし、症状の背景を調べることで、改善できる原因が見つかる場合もあります。
性欲低下、ED、疲労感、活力低下などが続いている場合には、まず現在の身体の状態を確認し、テストステロンを含めて原因を整理してみることが大切です。
医師からひとこと
男性更年期の症状は、「疲れやすい」「やる気が出ない」「性欲が落ちた」など、日常の中で起こる変化と重なるものが多くあります。
そのため、「年齢のせいだろう」とそのままにしている方も少なくありません。
一方で、実際に診療していると、テストステロン低下だけでなく、睡眠不足や肥満、睡眠時無呼吸症候群、糖代謝の問題などが重なっているケースもあります。
男性更年期の診療で大切なのは、テストステロンの数値だけを見て治療を決めることではありません。
症状、睡眠、体組成、生活習慣、基礎疾患なども含めて確認し、「何が今の不調に関係しているのか」を整理することが重要です。
また、テストステロン補充療法(TRT)は有力な治療選択肢の一つですが、すべての方に必要な治療ではありません。生活習慣の改善やED治療、睡眠の評価などを組み合わせた方がよい場合もあります。
「治療が必要かどうかはまだ分からないけれど、一度自分のテストステロン値を知っておきたい」という段階でも問題ありません。
男性更年期が気になる方は、まず現在の身体の状態を確認するところから始めてみてください。
関連記事
男性更年期やテストステロンについて、さらに詳しく知りたい方は以下の記事も参考にしてください。
-
男性更年期の検査とは?テストステロン採血・検査項目・受診の目安
-
テストステロンはなぜ朝に測る?採血時間・空腹・再検査が重要な理由
-
男性更年期の治療とは?テストステロン補充療法(TRT)の効果と適応
-
テストステロン注射の効果と副作用|TRTを始める前に知っておきたいこと
-
男性更年期とED・性欲低下の関係|ED治療薬とTRTはどう使い分ける?
-
肥満・睡眠不足・運動不足でテストステロンは下がる?生活習慣との関係
-
男性更年期と睡眠時無呼吸症候群(SAS)の関係|TRT前に確認したい理由
今後、記事を追加したら各項目から該当記事へ内部リンクを設定していきます。
参考文献
-
日本泌尿器科学会・日本Men's Health医学会・LOH症候群(加齢男性・性腺機能低下症)診療の手引き作成委員会 編.LOH症候群(加齢男性・性腺機能低下症)診療の手引き.医学図書出版,2022.
日本におけるLOH症候群の定義、症状、テストステロン評価、治療適応などを整理した基本資料です。 -
Bhasin S, Brito JP, Cunningham GR, et al. Testosterone Therapy in Men With Hypogonadism: An Endocrine Society Clinical Practice Guideline. J Clin Endocrinol Metab. 2018;103(5):1715-1744.
男性性腺機能低下症の診断、早朝空腹時テストステロン測定、再検査、原因検索、TRTの適応・禁忌・モニタリングについて示した代表的ガイドラインです。 -
Endocrine Society. Testosterone Therapy for Hypogonadism Guideline Resources. 2018.
「症状・徴候+一貫して低いテストステロン値」を診断の基本とし、LH・FSHによる原発性/続発性性腺機能低下症の鑑別やTRT後のモニタリングについて整理されています。 -
Endocrine Society. Statement on Testosterone Replacement Therapy. July 16, 2026.
2026年時点でのTRTに関する声明で、症状だけでは性腺機能低下症とは診断できず、正確に測定したテストステロン低値の確認が必要であることを改めて強調しています。 -
Snyder PJ, Bhasin S, Cunningham GR, et al. Effects of Testosterone Treatment in Older Men. N Engl J Med. 2016;374:611-624.
Testosterone Trialsの主要報告です。低テストステロンを有する65歳以上の男性790人を対象に、TRTによる性機能、身体機能、活力への影響を検討しました。性活動・性欲・勃起機能には改善を認めた一方、活力への効果は限定的でした。 -
Snyder PJ, Kopperdahl DL, Stephens-Shields AJ, et al. Effect of Testosterone Treatment on Volumetric Bone Density and Strength in Older Men With Low Testosterone: A Controlled Clinical Trial. JAMA Intern Med. 2017;177(4):471-479.
Testosterone Trialsの一部として、低テストステロン男性へのTRTが骨密度・骨強度に与える影響を検討した臨床試験です。 -
Roy CN, Snyder PJ, Stephens-Shields AJ, et al. Association of Testosterone Levels With Anemia in Older Men: A Controlled Clinical Trial. JAMA Intern Med. 2017;177(4):480-490.
低テストステロン男性にみられる貧血と、TRTによるヘモグロビン改善について検討したTestosterone Trialsの一部です。 -
Lincoff AM, Bhasin S, Flevaris P, et al. Cardiovascular Safety of Testosterone-Replacement Therapy. N Engl J Med. 2023.
TRAVERSE試験。心血管疾患を有する、またはリスクが高い45〜80歳の男性5,246人を対象とした大規模RCTで、TRT群とプラセボ群で主要心血管イベントの発生に有意な増加を認めませんでした。 -
U.S. Food and Drug Administration. Testosterone Information. Updated 2026.
FDAはTRAVERSE試験などの新しいエビデンスを踏まえ、2026年にテストステロン製剤の安全性情報を更新しています。TRAVERSEでは主要心血管イベントはTRT群7.0%、プラセボ群7.3%でした。 -
Fleseriu M, Hashim IA, Karavitaki N, et al. Hormonal Replacement in Hypopituitarism in Adults: An Endocrine Society Clinical Practice Guideline. J Clin Endocrinol Metab. 2016;101(11):3888-3921.
続発性性腺機能低下症を含む下垂体機能低下症に対するホルモン補充について示したガイドラインで、TRTによる性機能、体組成、骨密度、貧血などへの影響も整理されています。

